結論から言うと、馬車で先に帰ったはずのテスタロッサたちよりも俺たちの方が一時間ほど早くイリタールの城に着いた。
「まだあいつらは来ていないみたいだな。とりあえず国王のところに石板を持っていくか」
「そうですね」
「そうしましょう」
カルチェとスズが返事をする。
「プププー」
スズの頭の上のプフも飛び跳ねて答えた。
「おお! よく帰った王子よ……んん? もしかしてその手に持っておるのはラファグリポスか?」
「はい、そうです」
「おおお! なんとまあ、本当にみつけてくるとは。これはお前たちには何か褒美を考えんといかんのう」
謁見の間にて、俺とスズとカルチェは国王の前にひざまづいていた。
プフもスズの頭の上から下りてちょこんと座っている。
「国王、褒美なら今回この石板をみつけられたのはエルフの少女の助けがあったからなのです。なので彼女をこの城に住まわせてあげたいのですがどうでしょうか?」
「なにエルフとな……ふむ、そんなことでよいのならわしは全然かまわんが」
「ありがとうございます」
話の分かる国王でなによりだ。
「どれラファグリポスを見せておくれ」
俺のもとへ大臣が歩み寄り石板を受け取るとそれを国王に手渡した。
「これがラファグリポスか。普通の石板のように見えるがただならぬ何かを感じるのう……これ、大臣よ。わしの部屋に持っていっておいてくれ」
「はっただいま」
「長旅で疲れているだろう。そこでだ、三日間の休みをみなに与えることとする。有意義につかってくれ」
「「「ありがとうございます」」」
俺たちは声を揃えて返事をした。
……まあ、俺は毎日が休日みたいなもんなんだけどな。
謁見の間を出るとそれぞれ各自の部屋に向かう。
プフはすっかりスズに懐いたようでスズの部屋で一緒に暮らすことになった。
俺は自室のドアを開けるとそこには部屋の掃除をするミアの姿があった。
「カズン様!? カズン様じゃないですか! いつ帰ってらしたのですかっ」
ほうきを床に置き俺のもとへと駆け寄ってくるミア。
俺の手を両手で包みこむように握り、
「ご無事でしたか? お怪我はありませんか?」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
「今さっき帰ってきたところだ。体は全然問題ないから大丈夫」
「そうですか」
安堵した表情を見せてから顔を赤くして、
「あっ、す、すみません」
ぱっと両手を放した。
「あの、それで探していた石板というのはみつかったんですか?」
「ああ、みつけたよ。国王に渡してきた」
「すごいですね。さすがカズン様です」
満面の笑みで笑いかけてくる。
ミアと顔を合わせるのは久しぶりだが心が癒される。
「お疲れでしょうからわたしは失礼しますね」
「ありがとう」
ミアが掃除道具を持って部屋を出ていった。
うーーん。ああやっぱり自分の部屋は落ち着くなぁ。
俺はベッドに腰を下ろすとそのまま後ろに倒れこんだ。
いくら強靭な肉体とはいえ疲れるものは疲れる。
俺はこのまま寝てしまおうと目をつぶった。
すると、
「カズンいるー? 入るわよー」
ノックもせず入ってくる奴がいた。テスタロッサだ。
隣にはアテナもいて手をつないでいる。
「おお、今着いたのか?」
「なんであんたたち馬車に乗ってきたあたしたちより早いわけ。おかしいんじゃないの」
と呆れ顔のテスタロッサ。
「国王には会ったのか?」
「さっきお義父様に会って挨拶は済ませてきたわ」
「そうか」
テスタロッサがお義父様と呼んでいるのは国王のことだ。
俺たちはまだ結婚はしていないがテスタロッサは国王が喜ぶからそう呼んでいる。
「石板はお義父様の部屋に厳重に保管しておいて当分は願いを叶えるつもりはないみたいよ」
争いの種になるのならいっそ壊してしまうか適当な願いを叶えてしまえばいいんじゃないかと思う反面、アテナが両親の墓の下に埋めて大事に守ってきたものだから残しておきたいという気持ちもある。
「あっそういえばアテナを連れてきてくれたのか、悪いな」
「だってこの子あんたのとこに行くって言ってきかないんだもん」
「……ここカズンのうち?」
「ああ、まあそうかな」
「……あたしのうちと同じくらい大きい」
アテナの言うあたしのうちとはアテナがいた森のことだよな、多分。
「……カズン偉い人?」
「いや――」
「全然偉くなんかないわよ。たまたまお城に住んでるってだけなんだから」
お前が答えるんかい。
「じゃ、あたし帰るわ。お父さ……エスタナ王にこれまでの経緯を説明しなくちゃだし。アテナまたね」
小さく手を振るアテナを見てテスタロッサは俺の部屋をあとにした。
アテナは俺を見上げている。
「アテナの部屋どうするかなぁ……オレの部屋に近い方がいいかな……」
考えていると、
「……ここがいい」
「へ? ここって俺の部屋、なんだけど……」
「……わたしカズンと一緒がいい」
じぃーっと俺の目を見るアテナ。
無表情だから考えてることが読めないなぁ。
「この部屋で二人で寝起きするのか?」
「……うん」
「一人の方が落ち着けるんじゃないか?」
「……ううん」
「もっときれいで広い部屋もあるぞ」
「……ここがいい」
これもある意味同棲って言うのかなぁ。女性と付き合ったことがない俺が同棲か。などとバカなことを考える。
う~ん……俺が森から連れ出した手前これは仕方ないか。
「よしっわかった。一緒に住むか」
「……うん」
こうして俺は見た目小学生で本当は五百二十二歳のエルフと同居することになった。