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第61話

突然襲ってきたカバのような魔獣の牙を俺は掴んだ。


「なんだこいつ!? いきなり襲ってきて……おらっ!」


俺は力任せに後ろにぶん投げる。

地響きのような音とともに地面に落下する魔獣。


魔獣はすぐに起き上がると俺めがけて突進してきた。

俺はそれをジャンプで避け、地面に降り立つ。


「う~、さむっ」


冬の夜の外の全裸は寒い。

さっきまで温泉に浸かっていたから余計寒い。

体が縮こまる。


「まあ待てってお前」


俺は魔獣を制するように手を前にかざすが、カバのような魔獣には言葉が通じていないのかなおも突っ込んでくる。


「ガルゥァア!」


しょうがない奴だな。

「おとなしくしてろっ」

俺は力を込めて魔獣の鼻先を殴った。

しかし、


ボヨン


と弾力のある分厚い皮膚に弾かれてしまった。


「おお! なんだ!?」


その後も突進し続けてくる魔獣に拳を打ち込むがびくともしない。


「カズン王子様、何か音が……きゃっ!」

カルチェが駆けつけてきて悲鳴を上げる。

カルチェにしては珍しく女の子らしい反応だな。


「カズン王子、服着たらどうですか?」

カルチェと一緒についてきていたエルメスの一言で俺は裸だったことに気付く。


「おわっ! ちょっ、俺は一人で大丈夫だから向こう行っててくれっ」

「は、はいっ。すみませんカズン王子様。姉さん行くよ」

「カズン王子ー、頑張ってくださいねー」

カルチェとエルメスが離れていく。


辺りが暗いおかげでギリ見られてなかった、と思う。


「ガルゥァア!」

間髪入れず向かってくる魔獣。

「お前のせいだぞこの野郎」

俺は大きな口を開けて牙で突き刺そうとしてくる魔獣を片手で受け止めると、パンチを口の中めがけて放った。


「ガルゥアアァー」


やっぱり口の中は頑丈じゃなかったらしい。

大きなダメージを受けた魔獣は鳴き声を上げながら暗闇の中へ消えていった。


「ふぅ……全く」

あの魔獣のせいですっかり体が冷えてしまった。

また入りなおさないと。



「すみませんでしたっ!」

洞窟に戻った俺にカルチェが深々と頭を下げた。

「私がでしゃばったせいでカズン王子様に不快な思いをさせてしまい……」

「いや、俺の方こそ、なんか悪かった」


「ねっ、言いましたよね。カルチェはタイミングが悪いって」

とエルメスが言ってくる。

そういえば前にそんなことを言っていたな。


「本当にすみませんでした」

「もういいからカルチェ、忘れてくれ」

「忘れるも何もほとんど何も見えなかったわよねぇ、カルチェ」

「う、うん……それはそうだけど」

なんかちょっと傷つく発言だな。


「プププ?」

プフが俺に寄り添ってくる。

言葉はわからないが俺を励ましてくれているような気がした。

俺はプフの頭をそっと撫でた。

「プププ~」


ちなみにスズとアテナはすでに寝ていた。

洞窟内は起こした火のおかげで暖かく、またうすぼんやりした火の揺れる明かりが眠気を誘う。


俺はリンゴをひとかじりすると洞窟の壁に背を当て腰を下ろした。


「私ももう寝るわ。今日は歩き疲れたもの。カズン王子、明日は私のペースで行きましょうね。お願いしますよ」

エルメスはカルチェと俺、交互に見ると地面の平らなところを探して横になった。


「カルチェも今日は疲れただろ、寝ていいぞ。火の番は俺がやっとくから」

「いえ、私は疲れていませんから、カズン王子様こそ寝てください。火は私が見ていますので」

カルチェが首を横に振る。金色の髪が揺れ、いい匂いがしてくる。

こうなったらカルチェは頑固だから素直には寝ないだろうなぁ。


「じゃあ交代で火の番をしよう。先にカルチェが寝てくれ、三時間したら起こすから」

「それなら先にカズン王子様が寝てください」

「俺はまだ眠くないんだよ。だからお前が先に寝てくれ、頼むから」

「そうですか、でしたら……そうさせてもらいます」

カルチェはそう言うと剣を脇に抱え座りながら目を閉じた。


本当は俺も眠い。

温泉に入ったから今すぐにでも寝ようと思えば寝られる。

だが、ニートは徹夜に慣れているんだ。

俺は目を見開く。


しばらくしてリンゴを食べきると腕組みをして火をみつめた。

それから周りを見る。


スズとアテナはまるで姉妹のように並んで寝ている。

プフはスズの横で丸まるようにして眠っている。

エルメスは俺の前で横になりなにやら寝言を言っている。

カルチェは俺の隣で小さく寝息をたてていた。


起こすのもかわいそうだ。

朝までおよそ八時間。

俺は頬を叩き気合いを入れなおした。

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