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第59話

「ラファグリポスをアテナが持ってるのか!?」

「……正確には隠し場所を知ってる」

アテナが言う。


「なんで隠し場所なんか知ってるんだ?」

エルフは物知りだと聞いたが、だからといって――。

「……わたしが隠した」

アテナが平然と答える。


「え、お前が隠したのか? ラファグリポスを」

「……昔、人間がラファグリポスを私利私欲のために使おうとした。だからわたしが隠した」

そうだったのか。

でもそれならなんで俺なんかに教えてくれる気になったんだろう。


「……案内してあげてもいい」

「本当か! それはすごく助かる」

「……でも条件がある」

「なんだ?」

「……カズンが願い事を叶えるその時まで一緒にいる」

アテナは俺の服のすそを握る手に力を込めた。


「わかった。それでいい」

俺がそう返すと、アテナは服から手を放し小指を俺に差し出した。

「ん? どうした」

「……約束」

「おお、そうか」

俺はアテナと指切りをすると森を出た。アテナと一緒に。



「俺の仲間が忍びの隠れ里で待ってるんだが先にそっちに寄ってもいいか?」

「……いい」

アテナがうなづく。


俺の足ならすぐに着くんだけどアテナが一緒だと……。

盗み見るとアテナは五百二十二年生きているといっても見た目は幼い少女なので歩幅が狭い。

この調子だと里に着く頃には夜中になっているだろう。


「……何?」

俺に見られていたことに気付いてアテナが訊いてくる。


「俺がお前を抱っこして走ってもいいか?」

「……なんで?」

「その方が早く着けるからさ」

「……わかった」


納得したアテナを抱えて俺は里に向けて走り出した。

猛スピードで風を切る。


「息出来てるか?」

「……うん」

アテナの髪が風で舞い上がり小さな額があらわになる。



俺たちは草原を超え、変わり映えしない砂地を進んでいった。

そして十分ほどして忍びの隠れ里に着いた。


里の入り口には旅支度を済ませたカルチェが立っていた。

「おかえりなさいませ、カズン王子様」

「ああ、ただいま」

「カズン王子様、もしかしてそちらが……」

カルチェは俺が抱えたアテナを見て訊いてくる。


「ああ、エルフのアテナだ」

俺はアテナを地面にそっと下ろした。

そして頭をポンと撫でる。


「私はカルチェと申します。カズン王子様のお供です。よろしくお願いいたします」

アテナに手を差し出すカルチェ。

「……うん」

そう言ってアテナはカルチェと握手を交わした。


「ではスズちゃんと姉さんを呼んできますね」

カルチェが里に入っていく。


「あと二人仲間がいるんだ。癖は強いけど悪い奴らじゃないからよろしくしてやってくれ」

「……うん」


数分後、カルチェがスズとエルメスを連れて戻ってきた。


「えっ何、その子がエルフなの? 超可愛い~!」

エルメスがアテナに抱きつく。

「……?」

アテナが困惑した表情で俺を見る。


「おいこら、離れろ」

俺はエルメスを引きはがした。

「こう見えてアテナはお前よりずっと年上なんだからな。気をつけろよ」


するとエルメスは両方の手のひらを上にして、

「あ~あ、これだからカズン王子は。女心がまるで分かってないんですから。女子は年齢には敏感なんですよ。ねぇアテナちゃん」

「……?」

首をかしげるアテナ。

まるでかみ合ってない。


「拙者はスズと申します。カズンどのと一緒にとある石板を探しています」

スズは一礼した。

「……よろしく」

アテナも頭を下げる。

「プププッ」

「プフもよろしくと言っています」


「ああ、そういやその石板のことなんだけどな、アテナが場所を知っているらしい」

「えっほんとですか!」

スズが反応する。

スズの頭の上に乗っていたプフが落ちそうになる。


「ほんとなの、アテナちゃん!?」

エルメスも目を輝かせる。

「やったわ、これでこんな旅ともおさらば出来るわっ!」

現金な奴だ。


「それでその場所というのはどちらなのですか?」

カルチェが訊く。


アテナはゆっくりと手を上げ、

「……あっち」

と東の方向を指し示した。


「おお! 東ですね。プフの言っていた通りです」

「そうと分かればさっさと行きましょうよっ」

スズとエルメスが笑みをこぼす。


「そうだな。行くか」


こうして俺たち五人と一匹は東へ向けて歩き出した。


その道中、何かとあればすぐにアテナに抱きつこうとするエルメスを遠ざけながらアテナの歩幅に合わせて俺たちは歩を進めていた。


「アテナちゃん森で一人きりなんて寂しいでしょ。うちのお城に来る?」

「……森の動物たちがいるからいい」

「私の部屋でよかったらいつでも大歓迎だからねぇ」

「……苦しい」

「こら、離れろ」


「姉さん、アテナさんに失礼でしょ。すみませんアテナさん」

「……姉さん?」

「ああ、エルメスとカルチェは姉妹なんだ。全然似てないだろ」

「……似てない」

「ちょっとどういう意味ですか、カズン王子。もしかしてセクハラですか?」

エルメスが胸をおさえ、侮蔑したような目で俺を見る。


「プププ」

「プフも似てないと言っています」

「ちょっとみんなして何よ、も~」

「自業自得よ」

「ふふっ」

笑いが自然と出た。


「何笑ってるんですかカズン王子。もとはと言えばあなたのせいですからねっ」

「はいはい、悪かったよ」

「全然悪いと思ってませんよねっ」

「姉さんってば、カズン王子様から手を放して」


「……似てない」

アテナがぽつりとこぼした。

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