「石板じゃて?」
翌朝、スズ曰く里の生き字引であるスズのおばあちゃんに石板のことを訊いてみた。
「悪いがラファなんとかちゅう石板の話は聞いたことなかぁよ」
「そうですか」
スズのおばあちゃんからも石板についての情報は何も得られなかった。
ラファグリポスなんて本当にあるのだろうか。
俺たちは肩を落とした。
「……じゃあ、エルフって会ったことありますか?」
俺はついでに訊いてみた。
「またその話ですか、カズン王子」
面倒くさそうにエルメスが言う。
「俺は本当にエルフに会ったんだって」
「なん、エルフじゃて? そなもんは昔はこの辺に仰山おったで、何度も会うとるわ」
「えっおばあちゃん、ほんと?」
スズが身を乗り出す。
「ほら見ろ、だから言っただろ。見間違いなんかじゃないって」
「カズン王子様、少しでも疑って申し訳ありませんでした」
「そやなエルフなら長生きじゃけぇその石板ことも知っとるかものぅ」
「だったらカズン王子が会ったっていうエルフに会いに行きましょうよ」
「でも俺が会ったエルフは小さい子どもだったし、石板のことも知らないって言ってたからなぁ」
「エルフさ見た目子どもでも何百年も生きとるもんもおるぞ」
とスズのおばあちゃんが言う。
続けて、
「いたずら好きなもんもおるけぇ騙されたかも知れんぞい」
「そのエルフにかつがれたんじゃないですかカズン王子」
うーん、そういえば石板のことを訊いた時、あのアテナってエルフ、ちょっと迷っていたような気もするなぁ。
「そのエルフに会いに行きましょうよ」
エルメスが俺を見る。
俺はみんなの顔を見回した。
みんながうなづく。
「じゃあ会いに行ってみるか」
「また来んさいなって」
朝食までごちそうになった俺たちはスズのおばあちゃんの家をあとにした。
「スズ、達者でな」
「王子様、昨日はすごかっただな」
「また来てくださいね」
里の人たちに見送られながら俺たちはスズの故郷である忍びの隠れ里を出た。
「食糧まで持たせてくれて助かりましたね」
とカルチェが米の入った袋をかつぐ。
「俺が持とうか?」
「いえ、私に持たせてください」
頑固なカルチェのことだ。意地でも放さないだろう。ここは素直に任せておこう。
「一旦戻るけどいいかプフ?」
「プププ」
「スズ、プフは何て言ってる?」
「そうですね、石板はまだ東だと言っていますけど。」
「そう言ってあんたは前回ミスってたんだから今回はエルフに訊くのが先よ」
エルメスがプフの顔を指差す。
「プププ~」
「仕方ないなと言っています」
「何そんなこと言ってんのこいつ、なんか偉そうねあんた」
プフの両頬を引っ張るエルメス。
「プププッ」
「放してくださいエルメスどのっ」
「こら姉さん、動物虐待よ」
スズとカルチェに両腕を掴まれる。
「わかったからあんたたちこそ放しなさいよっ」
全く何をやっているんだか。
「なんならお前たちはここに残ってもいいんだぞ。俺一人ならすぐ行って戻って来れるから。スズだってもう少し里にいたいだろ」
「そんな、拙者は別に……」
「いいんですか行かなくて? やった~。だったら私もスズと一緒にここでカズン王子を待ってますっ」
嬉しそうにスズに抱きつくエルメス。
「私はカズン王子様と行きたいと思います」
俺をじっと見るカルチェ。
「バカねぇ~カルチェは。カズン王子は私たちが足手まといだって言ってるのよ」
「え、いや、そんなことは言っていないが――」
「あんたも空気を読めるようになりなさい」
「そうでしたか。で、では私もここに残ります」
悲しそうな顔でカルチェは言った。
なんだかな~。
「さっ俺はもう行くぞ」
俺は一人エルフのいた森目指して、もと来た道を戻ることにした。