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第53話

「カズン王子様お帰りなさい。何かみつけましたか?」

遺跡の前に戻るとカルチェが出迎えてくれた。

「うーんみつけたんだけどなぁ……」

エルフの少女アテナに採った果実を全部返してしまった。


「リンゴがあったんですか?」

「ああまあな。でも悪い、これ一つしかないんだよ」

「大丈夫ですよ。私が魚を人数分捕まえましたから」

そう言って首を動かす。


カルチェの目線の先にはたき火があってそこには魚が七匹、棒に刺した状態で焼かれていた。


「カズン王子遅いですよ、何やってたんですか? テスタロッサ様たちはもうスズの作った解毒薬でとっくに回復しましたよ」

エルメスが近寄ってくる。

「あっリンゴじゃないですか!? 私リンゴ大好きなんです、カズン王子それくださいよ」

王子相手に遠慮のない奴だ。


俺はリンゴをエルメスに手渡した。

「エルフにもらったんだから大事に食べろよ」

「エルフ?」

エルメスがきょとんとした顔でリンゴを受け取った。


俺はたき火のもとへ向かった。すると、

「カズン、あんたあたしがしびれて動けないっていう時にどこに行ってたわけ? それでもフィアンセなの?」

テスタロッサが詰め寄ってくる。


「食べ物を探しに行ってたんだ」

「何も持ってないじゃない」

「それは――」

「まあまあ、彼も彼なりに頑張ったんだよテスタロッサ。あんまり責めたら気の毒じゃないかい」

割って入ってくるダン。

よかったな元気になって。


「あのねぇ、もとはと言えばあんたが変なボタンを押すからいけないんでしょ!」

「それはないよテスタロッサ。きみが押せって言ったんじゃないか」

「そ、それはそうだけど、あんたはあたしのボディーガードみたいなもんなんだから危険くらい察知しなさいよっ!」

理不尽なことを言う。


俺は二人は放っておいてスズに声をかけた。

「スズ。よくやったな。お前の作った解毒薬効いたみたいじゃないか」

「えへへ、やりました」

スズは笑みをこぼした。


「魚が焼けたのでいただきましょう」

カルチェが魚をみんなに配る。

「はい、スズちゃん。プフちゃんの分もね」

「ありがとうございます、カルチェどの」

「プププ~」


「テスタロッサ様もはいどうぞ」

「ありがとう。いただくわ」


「ちょっと姉さん、一人でカズン王子様が持ってきたリンゴ食べちゃったの? みんなで分けようって気はなかったわけ? も~意地汚いんだから」

木の下で日の光を避けているエルメスに向かって言う。


「カズン王子が一個しか持ってこなかったのが悪いのよ」

「どうしてそうなるのよ。申し訳ありませんカズン王子様。無礼な姉をお許しください。ほら姉さんも謝って」

カルチェが俺に向かって頭を下げる。


「これだから優等生は。あ~やだやだ」

「優等生の何が悪いって言うのっ」

「おい、姉妹喧嘩は後でやってくれ。今はカルチェの捕ってくれた魚をみんなで食べよう」

「カズン王子の言う通りだよ。子猫ちゃんたちに喧嘩は似合わないよ。さあ命に感謝していただこうじゃないか」

ダンがいつの間にかちゃっかり俺の隣に座って魚をほおばっている。


「こうやって魚を食べるのは初めてだけど、なかなかおいしいわね」

とテスタロッサが言う。

お嬢様だから棒に刺した焼き魚なんて食べたことなかったんだな。


「テスタロッサ様に気に入っていただけてよかったです」

俺の隣に座るカルチェがほほ笑む。


俺たちはたき火を囲んで焼き魚を堪能した。

テスタロッサじゃないけど俺もこんな風にしてしかも大勢で魚を食べるのは、子どもの頃家族で出かけたキャンプの時以来だ。

ニートになってからはキャンプはおろかランチさえ一緒に行くことなどなくなっていたからな。


「カズンどの、どうかしましたか?」

「もしかしてお口に合いませんでしたか?」

スズとカルチェが心配そうに俺を見る。

「いや、なんでもない。すごくおいしかった。それでなんの話だったっけ?」


「これからどうするかですよ」

エルメスが言った。


「あたしとダンは一旦お城に戻るわ。ここの遺跡が違ったことをお父……エスタナ王に報告しなくちゃだし。カズンたちはどうするのよ」

「そうだなぁ……」

俺たちも城に戻りたいところだけど……。


「私たちもお城に戻りましょうよカズン王子」

「何言ってるのよ姉さん。まだ一か所しか探してないのに帰るわけにはいかないでしょ。国王様は私たちを信頼して送り出してくださったのよ」

「……は~い」

エルメスがカルチェに注意された。

よかった言わなくて。


「プププ!」

「プフが自分に任せろと言っています」

「任せた結果がこれなんだけどね」

エルメスが失笑する。


「でも現状プフちゃんに頼るしかないですよね」

「そうだな。プフを信じてもう一か所くらいは回ってみるか」

「また違ってたらどうするんですか?」

「もう姉さんたら……」

「その時はその時だ」

俺はこの世界に来て楽観的に物事を考えるようになったかもしれない。力を手にしたことで自分に少し自信が持てるようになったからか。

もとの世界にいた時はむしろ真逆だったくらいだ。

常に悪い方悪い方に考えていたと思う。


この調子ならいつかもとの世界に帰った時にニートを脱することが出来るかもな。



「話は変わるがみんなはエルフに会ったことってあるか?」

俺は気になっていたことを訊いてみた。


「あ~そういえばカズン王子さっきも言ってましたね。エルフがどうとか」

「エルフは希少種ですからね。私は会ったことはありません」

「拙者もです」

「ボクも会ったことはないよ。でも一度は会ってみたいね、エルフは美人だって話だからね」

「カズン、エルフがどうしたって言うのよ」

そうか、エルフに会うのは珍しいことなのか。


「いや、俺さっきエルフの女の子に会ったんだけどさ……」

「またまた~。だまされませんよ」

「嘘じゃないって。お前にやったリンゴもエルフの女の子からもらったものだし」


「カズン王子様、言いにくいんですけどエルフはとても警戒心が強いんです。ですから人前に姿を現すことは滅多にないですし、ましてや人間に何かをあげるなんてことはまずないかと……」

カルチェはすまなそうな顔をしながら説明してくれる。


「でも耳がとんがってたぞ」

「カズン、あんたが会ったのは耳がとがったただの人間の女の子よ」

テスタロッサが言い捨てた。

本当にそうなのだろうか。


「その子は美人だったかい?」

ダンが摘み取った花の匂いを嗅ぎながら訊ねてくる。

「さあ……どうだったろうな」

顔立ちは整っていたが年端もいかない少女だったからなぁ。美人かどうかと訊かれても困る。


「とにかくただの人間かあんたの見間違いよ。そんなことよりあたしたちはもうお城に帰るわ。じゃあまたね。カズン……一応あたしたちは婚約してるんだからもし浮気なんかしたら殺すわよ」

「その時はボクがテスタロッサの面倒を見るから心配いらないよ。バーイ」


テスタロッサが馬車に乗りこみダンは前に座ると、手綱を一引きし颯爽と馬を走らせ行ってしまった。


「行ってしまわれましたね」

「じゃあ俺たちも行くか」

「やっぱり行かなきゃですよね」

「プププー」

プフがスズの頭の上でジャンプした。


「プフが東だと言っています」

「……ほんとかしら」


俺たちはたき火を消すと東に向かって歩きだした。

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