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第52話

「あっ、あそこに倒れているのはもしやテスタロッサどのとダンどのでは!」


スズが声を上げた。


通路を左に曲がると遺跡の中を隈なく探し回っていた俺たちの前にテスタロッサとダンの姿が見えた。


俺たちは二人に駆け寄った。


「どうだ二人の様子は?」


「ダンどのは気絶していますが命に別状はなさそうです」

「テスタロッサ様は無事です。意識もあります」

スズとカルチェが報告する。


「テスタロッサ、大丈夫か? なにがあったんだ」

「あ、あんたたち来るのが遅いのよ」

俺の顔を見上げながら憎まれ口をたたくテスタロッサ。

なんか知らんが大丈夫そうだな。


「へ、変なボタンがあったから押したらガスが出てきて……今、体中がしびれてるの……動けそうもないわ」

変なボタン?

俺は周りの壁を見回した。

すると、


「あっ、ボタンってこれのことじゃないかしら」

エルメスが壁を指差す。


そこにはたしかに石で出来た壁とはつくりの違うボタンらしきものが出っ張っていた。


「そ、そう。それよ。ダンがそれを押して……ガスをもろにくらったのよ」

そうか、それでダンは意識がないのか。

それにしてもこんな怪しいボタンよく押したな。


「……おい、エルメス押すなよ」

「わ、わかってますよっ。バカじゃないんですからっ」

「あ、あたしたち……バ、バカで悪かったわねエルメス」

「あ、いえ別にテスタロッサ様のことを言ったわけじゃないですよ」

両手を振り弁解するエルメス。


「外に出れば解毒薬が作れるかもしれません」

とスズが言う。

「ではテスタロッサ様は私が運びます」

そう言ってカルチェがテスタロッサをお姫様だっこの要領で抱き上げた。


「ならダンは俺が運び出すか。エルメス隣を歩いてくれ」

俺はダンを背負うと、もと来た道を歩き出した。


「カズン、あんた……もしかして石板みつけたの?」

カルチェに抱っこされたテスタロッサが訊いてくる。

「まあ、みつけたにはみつけたんだが……」

「な、何よ、歯切れわるいわね」

「ラファグリポスではありませんでした」

カルチェが補足する。

「何の変哲もないただの石板だったんです」


「……なぁんだ。そうだったんだ……残念」

「? テスタロッサどのは拙者たちがラファグリポスをみつけてしまった方がよかったのですか?」

「そりゃそうよ……あ、あたしはさっさとこんなこと終わらせてお城に帰りたいんだからね」

とテスタロッサはエルメスと同じようなことを言う。


「そうですよね、テスタロッサ様。早くもとの堕落した生活に戻りたいですよね~」

「あ、あんたと一緒にするんじゃないわよ」

弱々しく返す。


「そろそろ出口だぞ」

向こうの通路から日光が差してきている。

「じゃあもうこれはいいですね」

エルメスがぱたんと本を閉じた。

すると、さっきまで光を放っていた本が輝きを失う。

「は~、疲れた」

首を鳴らすエルメス。



遺跡の外に出た俺たちはテスタロッサとダンを横に寝かせると解毒薬の材料になりそうな植物を探した。

「なるべく木の根元を探してください」

とスズ。


「も~面倒くさいわね。収穫ゼロだったっていうのにこんなことまでさせられて。私は宮廷魔術師なのよ……」

「姉さん。口よりも手を動かして」

「はいはい……ってこれじゃないのスズが言ってたの」

エルメスが植物を引っこ抜いてスズに見せた。


「はい、それです。では解毒薬を作るのでかしてください」

「は~い」


スズが石でエルメスの採った植物をすりつぶしている。

俺たちはその間に昼食の用意をすることにした。

「近くに川があったので私は魚を捕ってきたいと思います」

「ああ、頼むよカルチェ」


「私はちょっと休んでてもいいですか? 遺跡の中でずっと魔術を使っていたから疲れてるんですよ」

うーん。魔術でどれほど体力が消耗するのかわからないがまあいいか。

「ああ、いいぞ。遺跡の中ではご苦労様」

「え、いいんですか? ありがとうございますカズン王子っ」

エルメスはテスタロッサとダンの横に座った。


だったら俺は食べられそうな木の実でも探すかな。

俺はみんなから離れて森の中に入っていった。


「おっこれなんかよさそうだな。ん、こっちにもあるぞ」


入ってすぐに木苺のようなものをみつけた。すもものようなものもある。

俺は適当にそれらを摘んだ。


食べられるかどうかは後でスズに判断してもらえばいいだろ。


「結構あるもんだな」



俺は夢中になり知らず知らずのうちに森の奥に入ってしまっていたようだった。

それに気付いたのはある声が聞こえたからだ。


その声というのは『出ていけー』というものでおどろおどろしい声をしていた。


俺は果実採りに夢中になっていたがはっと我に返る。

な、なんだ今の声は?


『その荷物を置いて今すぐこの森から出ていけー』


空耳じゃない。

どこから声がするのだろう。

まるで森全体から聞こえてくるようだ。


俺は声のする方を確かめようと辺りを見回す。


「ん?」

すると木の陰から顔を半分覗かせた少女と目が合った。

少女はメガホンのようなものを持っている。

それを口元に当て口を動かす少女。


『袋を置いて出ていくのだー』


声が森中に反響する。


このおどろおどろしい声は彼女のものか?


俺は少女に近付いていった。


「なあ」

俺が声をかけると少女はびくっとした。

そしてそろりと木の陰から姿を現す。


「!?」


俺は内心驚いた。

少女の耳はとがっていて髪は長く金色。葉っぱでできた服を着ていた。

これは俗にいうエルフというやつなのでは……。


すると少女はメガホンを口元から外し口を開いた。


「……それが目に入らないの?」


少女が指を差した。

俺は振り向く。

少女の指差す先には立て札があった。


【私有地につきこの先入るべからず】


「……ここアテナのおうち」

足元を指差す少女。


「きみアテナって言うのか? 俺はカズンだ。悪いな、立て札に気付かなかったよ。すぐ出ていくから」

俺がきびすを返そうとすると、

「……待って。それ返して」

俺の持つ袋を指差す。


「もしかして俺が採った果実のことか?」

「……そう」

こくりと小さくうなづいた。


「ごめんな……はいこれ」

俺は森の中で採った果実を全てアテナに渡した。

「邪魔したな」

アテナの頭にぽんと手を置いた。


「……待って」

アテナが俺を呼び止める。


「どうした? まだ何かあるのか」

「……代わりにこれあげる」

と言ってリンゴを差し出してくる。


「もらってもいいのか?」

「……いい」

「そっか。それならありがたくいただくよ」

「……うん」

アテナは俺をじーっとみている。


「きみはエルフなのか?」

「……うん」

エルフならもしかして石板のことも何か知っているかもしれない。せっかくのチャンスだから訊いてみるか。


「あのさ、ラファグリポスっていう古代の石板のこと何か知らないかな?」

アテナは少し考えた様子で一点をみつめそれから、

「…………知らない」

と答えた。


まあそうだよな。そんな都合のいいことがあるわけないよな。

俺はアテナに別れを言おうとした。が、

アテナの姿はすでに消えていた。

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