「わぁ。カルチェどのやりましたねっ」
カルチェのもとへ駆け寄っていくスズ。
「今の技はなんという技なんですか?」
「え、技の名前は特にないですけど」
「そんな、もったいないですよ。拙者カッコイイ技名つけたいです」
スズが興奮して飛び跳ねる。
「今何をやったんだ? カルチェの奴は」
「カルチェは目を閉じることでゴーレムの核がどこにあるか肌で感じ取ったんだと思いますよ」
とエルメスが言う。
「勘がいい子なので」
そういうもんなのか。俺にはよくわからない。
「なんにせよ、カルチェよくやったな」
「はい、ありがとうございます。カズン王子様」
続けて、
「私も役に立ったわよ」
とエルメスを見て言い放つ。
「あんた意外と根に持つタイプよねぇ。モテないわよ」
「うるさいっ」
姉妹喧嘩は置いといて目的の箱を早速開けてみようじゃないか。
「拙者が開けてもよいですか?」
「ああ、好きにしろ」
「ではいきます……」
スズが自分と同じくらいの大きさの箱に手をかけた。
「はぁ~これでお城に帰れるのね」
と伸びをするエルメス。
「えいっ……あれ?」
箱を開け中を見たスズの反応があまりよくない。
「プププ?」
「なんだ、どうした。何が入ってた?」
「これがラファなんとかなんでしょうか?」
ラファグリポスな。
スズが一枚の石板を取り出した。
「なぁんだ、ちゃんとあるじゃないの石板。もうスズったらびっくりさせないでよね」
「いえ、それがですね……」
近くにいたカルチェも箱の中を覗いた。すると、
「えっ!? これはまた……」
カルチェが驚いた様子でこっちを見てくる。
「何? なんなのよも~」
しびれを切らしたエルメスが箱の中身を自分で確かめに行く。
「石板があったんだから何も問題ないでしょうが…………ってこれどういうことなの?」
「カズンどのも来てください」
俺はスズに促されみんなのもとへ歩いていく。
そして箱の中を見た。
「おお! すげーな」
箱の中には石板が何十枚と入っていた。
「ラファグリポスというのは一つですよね?」
カルチェが俺に訊いてくる。
「そのはずだが」
国王からはそう聞いていた。
「じゃあこれは一体なんなのでしょうか?」
「プププ?」
スズとプフが首をひねる。
「まあ普通に考えたらこれはラファグリポスじゃないただの古い石板なんじゃないか」
「そんなっ……で、でもまだわかりませんよカズン王子。もしかしたらこの中のどれかが本物のラファグリポスって可能性も――」
「じゃあ試してみろよ。願いが叶えば本物だから」
「え、私が願いを叶えちゃってもいいんですか?」
「別にいいぞ」
エルメスの願いなんてどうせ休みが欲しいとか、酒を沢山飲みたいとかだろう。
国王が恐れていたのはラファグリポスをめぐって争いが起こることだったはずだからな。
「では拙者も試してみたいですっ」
スズが元気よく手を上げた。
好きにすればいいさ。
「……あ、あの私もいいでしょうか?」
カルチェも控えめに手を上げた。
みんなそんなにも叶えたい願いがあるのかな。
「ああ、好きにしたらいいよ」
三人は我先にと箱から石板を取り出し願いを言っていく。
「立派なメイドになりたいです!」
スズが石板に向かって大きい声で願い事を言う。
「楽して暮らしていけますように」
エルメスはニートみたいなことを言っていた。
「カズ……」
カルチェは声が小さくてよく聞こえない。
石板にそれらしい反応はみられない。
十分ほどして気付けば数十枚あった石板も残り一枚となっていた。
「最後の一枚は私がもらうわっ」
そう言って石板をふんだくるエルメス。
「あっずるいです。エルメスどのはもうすでに沢山――」
「待って姉さん、スズちゃん」
カルチェが口を開いた。
「最後の一枚はカズン王子様に願い事をしてもらいましょうよ。ねっ」
「それもそうですね」
「まあ、それでも別にいいけど……はいこれ」
エルメスが口をとがらせながら俺に石板を渡した。
三人が俺に注目する。
「……ちょっと三人とも離れてくれないか? あまり聞かれたくないんだが」
「聞かれたくないっていやらしい系の願い事だったりして~」
「拙者、気になります」
「姉さん、スズちゃんも。カズン王子様が言ってるんだから離れよう」
「プププ」
「プフちゃんもよ」
カルチェは俺に気を遣ってみんなを部屋の隅に連れていってくれた。
俺は反対側の隅に行くと三人に聞こえないように小声で願った。
「俺をもとの世界に戻してくれ」
何も起こらない。
石板にはなんの変化もなかった。
……ふぅ。これもラファグリポスじゃなかったわけだ。
ん、俺は今、願いが叶わなくてほっとしたのか?
「カズンどのー、もう願い事はいたしましたか?」
スズが下から覗きこんできた。
「どんな願い事したんですかカズン王子、教えてくださいよ~」
エルメスが俺にすり寄ってくる。
「離れろこら」
「どうでしたか?」
カルチェが訊いてくる。
「ああ、この石板も違ったよ」
「そうですか。でもまだ旅は始まったばかりですから気持ちを切り替えていきましょう」
「出たっ。カルチェのいい子ちゃん発言。カズン王子に気に入られようと必死だねぇ」
「べっ別にそんなんじゃないし」
そっぽを向くカルチェ。
「それより……問題はこいつよ、こいつっ。やっぱり適当言ってたんじゃない」
エルメスがプフの頬を引っ張る。
「プププッ!」
「エルメスどの、プフはラファグリポスとただの石板の違いまではわからないそうです」
「何よその言い訳は。そういうことは最初に言いなさいよね」
「プププー!」
結局ここの遺跡はハズレだったということだな。
「じゃあさっさとこんなところ出ましょうよ。ほこりっぽくてかなわないわ」
ローブをぱっぱとはたきながら言うエルメス。
「カズンどの、拙者お腹がすきました」
「プププー」
プフがスズの頭の上で飛び跳ねる。プフも腹がすいているらしいな。
「エルメスの言う通りここにはもう用はないな」
俺がもと来た道を戻ろうとした時。
「あの、もしかしてテスタロッサ様たちのこと忘れていませんか?」
カルチェが言葉を投げかけた。
「あっ!」
「あっ!」
「あっ!」
「プププッ!」
テスタロッサとダンのことを俺たちはすっかり忘れていたのだった。