「おーい、テスタロッサいるかー?」
「ダンどのー。おりますかー?」
「テスタロッサ様いる~?」
「テスタロッサ様いますかー?」
俺たちは遺跡の中を探して回るも二人の姿はなかなかみつからない。
「入れ違いに出ちゃったんじゃないかしら」
エルメスが言う。
まあ、それもあり得なくもない。
「だったら先に石板を探すか?」
「プププッ」
「プフがこの近くのようだと言っています」
「本当なの? 適当言ってんじゃないでしょうねこいつ」
エルメスがプフの頬を突っつく。
「プププ!」
プフが翼をばたつかせて抗議する。
「プフが怒っています」
「もう姉さんは口が悪いんだから。ごめんねプフちゃん」
プフの頭を撫でるカルチェ。
「ふ~ん、今のところ何も役に立ってないのはあんただけだけどね、カ・ル・チェ・ちゃん」
「なっ!? 何を――」
「私はこうやって遺跡の中を照らしてるし~、プフは道案内してくれてるし~、スズはそれを訳してくれてるし~、カズン王子はおにぎりくれたし~。何もしてないのはあんただけよ~」
リズムに乗せて歌うように挑発するエルメス。
「……我が姉ながら嫌なこというわね……いいわ、わかったわよ。私が役に立つってとこ見せてやるんだからっ!」
「あ~ら、それはいつ見られるのかしらね~」
俺から見ても嫌な奴だなこいつは。
「プププッ」
「この先を右に曲がったところに何かあると言っています」
プフを頭に乗せたスズが言う。
俺たちは丁字路を右に曲がった。奥に進む。
すると、
「ちょっと~。行き止まりじゃない」
エルメスの言う通り通路は袋小路になっていた。
「何もないな」
「プフちゃん、こっちでいいんだよね?」
「プププ~」
「おかしいですね。プフはたしかにこっちだと言っているのですが」
「やっぱり魔獣なんかに頼ったのが間違いね」
召喚した張本人が何を言うんだ。
と、
ゴゴゴゴゴ……
正面の壁が動き出した。
危ない、崩れる!
そう思ったが。
「みなさん待ってください、あれ壁じゃないです!」
後ろに逃げようとしていた俺たちをカルチェが引き留めた。
俺は立ち止まり壁をよく見る。
「あれ? なんか変な動き方……」
壁が徐々に変形して壁じゃなくなっていく。
「おいおい、なんだよあれ」
俺たちが壁だと思っていたものが石でできた巨大な怪物に姿を変えた。
「あれはきっとこの遺跡の守護者のゴーレムですよ」
カルチェが説明してくれる。
ゴーレムってゲームとかでよく出てくる奴か?
実際目の当たりにするとすげーでかいな。
「……」
ゴーレムはぴくりとも動かない。
「どうなってるんだ?」
「警告なんじゃないですか。これ以上進むなっていう。だから戻ればいいんですよ」
壁だと思っていた部分がゴーレムになったことでゴーレムの後ろに空間が出来た。
後ろを覗いてみると古びた箱のようなものがある。
「カズンどの。あれに見えるはもしかして」
「ああ、多分な」
あの箱の中に石板が入っているのだろう。
それを守っているのがこのゴーレムってわけだ。
「ちょ、ちょっと、何するつもりですか、カズン様っ!?」
エルメスが俺の服を後ろから引っ張る。
「え、あいつの後ろの箱を取りに行くだけだけど」
「そんなことしたらゴーレムが襲ってくるじゃないですかっ!」
「そしたら倒せばいいだろ」
「あ~もうっ。脳筋バカはこれだから」
エルメスが頭を抱える。
「待ってください。カズン王子様。私に行かせてください」
カルチェが名乗り出た。
「姉さんにバカにされたままではいられませんから」
随分気合いが入っているな。
「そうか、じゃあ任せるよ」
「はい、任せてください」
カルチェはそう言うと一歩前に出た。
ゴゴゴ……
それに反応したのかゴーレムが動き出す。
ゴーレムは右腕を大きく振りかぶった。
カルチェに向けてパンチを振り下ろしてくる。
「たあっ!」
カルチェは飛び上がってパンチをかわすとそのままゴーレムの右腕の上に乗った。
そして駆け上がっていく。
カルチェは剣を抜いた。
「はっ!」
剣がゴーレムの顔をとらえた。
ゴーレムの顔が勢いよく粉砕する。
カルチェは一回転して華麗に着地した。
「さすがです、カルチェどのっ」
しかし、ゴーレムは倒れない。
それどころか顔が再生していく。
「カルチェ、うしろだ!」
ゴーレムは裏拳を繰り出した。
倒したと油断していたカルチェが俺の声でとっさに防御態勢をとった。が、
ドゴッ
ゴーレムの重い一撃がカルチェに命中した。
壁に飛ばされるカルチェ。
「ぐはっ」
それでもなんとか立ち上がる。
「拙者も助太刀します」
「いえ、まだよ。まだ戦えるわ」
カルチェはスズを手で制した。
「おい、エルメス。あいつ砕けた顔がもとに戻ったぞ。どうなってるんだ?」
「ゴーレムのような魔法生物は体の中に核があってそれを破壊しない限り倒すことは出来ないんです」
エルメスの話を聞いていたカルチェが、
「そう。いいこと聞いたわ。ありがとう、姉さん」
ゴーレムに向き直る。
「不死身かと思ってちょっと焦ったけど、からくりがわかれば怖くないわ」
カルチェはそう言うと剣を鞘におさめ、目を閉じた。
ゴーレムがカルチェに向かって歩き出す。
「カルチェどのっ、なぜ目を閉じるのですかっ!」
「しっ、いいから黙って見てなさい、スズ」
「しかし、エルメスどの――」
「あれは私の妹よ」
ゴゴゴ……
ゴーレムが腕を振り上げた。
瞬間。
カルチェは目を閉じたまま素早く居合切り一閃。
ゴーレムの横を通過した。
腕を振り上げたまま固まって動かないゴーレム。
すると、
ガラガラと腕の部分の石が崩れていく。
そしてそれは体全体に広がっていった。
ゴーレムが音を立てて崩れ去った。
あとにはゴーレムの残骸である石と砂が山のようになっていた。