「……さい。カズン王子様。カズン王子様、起きてください」
目を覚ました俺の目の前にはカルチェの顔があった。
「……おう、おはようカルチェ、とスズ」
カルチェの後ろには頭にプフを乗せたスズが立っていた。
「おはようございます。カズン王子様」
「おはようございます。カズンどの」
「プププー」
「プフもおはよう。よく眠れたか?」
「はい。もうぐっすりです。プフの体がもこもこであったかくて気持ちよかったです」
それはなによりだ。
「エルメスは?」
「すみません。何度も起こそうとしたのですがなかなか起きなくて……」
カルチェが申し訳なさそうに頭を下げる。
「拙者が起こしてきましょうか? 少々手荒になりますが」
スズがメイド服のポケットに手を突っ込む。
何をする気だ、何を。
「いや、いいよ。もう少し寝かせといてやれ」
無理矢理連れてきてしまった負い目もあるしな。
「そういえばテスタロッサとダンは? まだ戻ってきていないのか?」
「そのようですね」
とカルチェ。
遺跡に入ってからもう七時間くらい経つ。
少し心配だな。
とスズが、
「カズンどの。拙者お腹がすきました」
俺を見上げて言った。
「プププ~」
「プフもすいているようです」
そうか。いつもならもう朝食の時間だものな。
「カルチェも腹減ってるか?」
「私は別にお腹はすいて――」
ぐぅ~
「すみません……すいています」
「はははっ。じゃあ朝食にするか」
「「はい」」
俺は城を出る時に国王から金貨十枚とミアから朝食用のおにぎりを持たされていた。
俺は革製の袋を開けた。
そこには沢山のおにぎりが入っていた。
「わ~。すごい数のおにぎりですね」
スズが覗き込んでくる。
「ほらスズ。カルチェも」
俺はスズとカルチェにおにぎりを手渡した。
「たくさんあるからどんどん食べてくれ」
「プププー」
「ああ、わかってる。ほらお前にも」
プフにもおにぎりを与えた。
「ミアに感謝していただくとしよう」
「いただきます」
「いただきます」
「プププ」
俺がおにぎりを口に運ぼうとしたその時、
「あ~よく寝た~」
目をこすりながらエルメスが馬車から出てきた。
「あっそれ朝ごはんですか? 私も食べます~」
……なんてタイミングのいい奴。
おにぎりをたいらげた俺たちは一息ついていた。
「カズン王子様、お茶がありますけど飲みますか?」
「ああ、もらおうかな」
俺はカルチェにお茶を注いでもらった。
「ありがとう」
「カルチェどの、拙者ももらってもよろしいですか?」
「もちろんいいわよ。はいスズちゃん」
「いただきます」
ふぅふぅとお茶を冷ましてから飲むスズ。
「カルチェ~、私にもお茶ちょうだい」
「はいはい。わかったわよ」
かいがいしくエルメスの分のお茶を注ぐカルチェ。
「プフちゃんも飲む?」
「プププ」
「飲むそうです。拙者があげるから大丈夫です」
そう言って自分が飲んでいたお茶をプフの前に出すスズ。
「はぁ~、落ち着くなぁ~」
「そうですね~、カズンどの」
「このままゆっくりしてたいわね~」
「こういう時間も必要かもしれないですね」
「プププ~」
まったりとした時間を過ごす四人と一匹。
しばらくそうしていたが、
「みんなそろそろ遺跡に入ってみないか? テスタロッサにはここで待ってろって言われたけど、あいつらがまだ戻ってきていないのも気になるし」
「カズン王子様に賛成です。テスタロッサ様たちに何かあったのかもしれません」
「えー、待ってろって言われたんだから待ってればいいと思いま~す」
とエルメスが口をへの字にする。
「スズはどう思う?」
俺はエルメスは無視してスズに訊ねた。
「行きましょう」
「よし、決まったな」
「はい。参りましょう」
「ちょっとあんたたち私を忘れてない? ねぇー」
「姉さんはここで一人寂しく待ってればいいじゃない」
「うっ……結局昨日と同じ展開になるのね……もう本当にここで一人で待ってようかしら」
「それでもいいが、もし石板がみつかってもお前の願いは却下だぞ」
「エルメスどの、この辺りは盗賊が出るかもしれませんよ」
「……も~わかったわよ。私も行くわよっ」
こうして俺たちは今にも崩れそうな遺跡の中へと足を踏み入れた。
「……真っ暗ですね」
入り口付近は日の光が入って明るかったが、遺跡の奥に進むと暗くて仲間の顔も判別できない。近くを歩く足音しか聞こえない。
「誰かたいまつとか持ってないのですか?」
「俺は持ってないぞ」
「はぁ~。みんな私がいてよかったわね」
そう言うとエルメスはなにやらごそごそと荷物をあさりだした。
「何してるの姉さん?」
「まあ見てなさいって」
暗くて何も見えないのだが。
「…………」
エルメスがぶつぶつとつぶやき始めた。
そして、
「聖なる光よ、我が書物のもとへ」
と言った瞬間――。
エルメスの持つ本が光りだした。
「うっ、まぶしいです」
本の近くに顔があったスズが顔を手で覆う。
辺りが光で照らされ遺跡の中が見えるようになった。
「すごいな。こんなことも出来るのか」
「もっとほめてくださってもいいんですよ」
光る本のおかげでエルメスの自慢気な顔がよく見える。
とにかくこれで先に進めるってわけだ。
俺たちは遺跡のさらに奥へと入っていった。