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第48話

「じゃあ早速入ってみるか」

「危なくないかしら、今にも崩れそうだけど」

「じゃあ姉さんはここで待ってる?」

「うーん、ここで一人で待ってるっていうのもねぇ。虫に刺されそうだし……」


「カズンどの。向こうから何か来ますよ」

スズが遠くを指差す。

「ん?」

俺はスズの指差した方向を見た。


一台の馬車がこっちに向かってくる。


「馬車だな」

「馬車ですね」


馬車がだんだん近付いてきて乗っていた人間のシルエットがはっきりしてくる。


「あっあいつは……」


「やあ!」


馬車にはダンが乗っていた。

手綱を強く引くダン。

馬がいななく。

馬車がドリフト走行のように曲がって止まった。


「きみたちこんなところで会うなんて奇遇だね」


ダンが馬車から降りて近づいてくる。憎らしいくらいのさわやかな笑顔だ。


「ああ、ちょっと用があってな。そっちこそどうしたんだ?」

「ボクかい? ボクも所用だよ。それよりボクはね今とっても幸せなんだ。なぜかって言うとね――」


「ちょっとどうしたのよ、急に止まったりして」


馬車の中から声がしてきた。


「ああ、ごめんよ。愛しのテスタロッサ」

テスタロッサ?


「もう~、怪我でもしたらどうするのよっ」

文句を言いながら馬車の中から寝ぼけまなこのテスタロッサが出てきた。


そして俺に気付き、

「カズン!? あんたなんでこんなとこにいるのよっ!?」

と大声を上げた。


「いや、実はラファグリポスっていう石板を探してるんだ」

「え、あんたもなの? あたしもなのよ。嫌になるわよね全く」

驚いた。まさかテスタロッサも石板探しに出ていたとは。それもダンと二人きりで。


俺が二人を見ていると、

「ちょ、ちょっと勘違いしないでよねっ。お父様の……エスタナ王の命令で仕方なくこんなのと一緒に石板探しに出てるだけなんだからねっ。好きで二人きりになってるわけじゃないのよっ」

必死に弁解するテスタロッサ。

そんなにダンと仲良く見られるのが嫌なのか。


「えっと、そっちはカズン以外みんな女なのね。ふ、ふーん。楽しそうじゃない」

「別に今のところそんな楽しいことはないけど」


「それであんたたちもこの遺跡に用があるわけ?」

「そうです。プフが石板探しを手伝ってくれたのです」

とスズが言う。

「プフ?」


「この魔獣でございます。テスタロッサ様」

カルチェが口を開く。

「この魔獣って何もいないじゃない」

「あ、あれっ!? おかしいですね」

「カルチェ。プフならあそこよ」

だるそうにエルメスが指差す。


「プププッ!」

「キュイイィッ!」


馬車の横でプフとハーレクインが喧嘩していた。


「ちょっと、ハーレクインやめなさいっ」

「プフ、離れるのです」

テスタロッサとスズが二匹をひきはがす。


「ははっ、喧嘩するほど仲がいいってね。まるでボクたちみたいじゃないかテスタロッサ」

ダンがターンしながら発する。

「全然違うわよ! あたしはあんたのことなんか大嫌いなんだからね!」

「はははっ。またまた~。照れなくてもいいよテスタロッサ」


ダンとの二人旅は疲れそうだな。テスタロッサに同情するよ。


「お前たちはどうやってここにあたりをつけたんだ?」

「あたしのお父……エスタナ王が遺跡を調べてみたらどうかって。だから一番手近なところにあったこの遺跡に来たってわけよ」

テスタロッサは続ける。


「だからあたしたちが最初に入るわよ、いいわね」

「何がだからなんだよ?」

「だってここはエスタナ国の領土じゃない」

テスタロッサに言われて気付く。

いつのまにか俺たちが隣国のエスタナに入っていたことを。


「じゃあお先に。あたしたちが石板を見つけても恨まないでね」

テスタロッサはウインクする。

「じゃあねきみたち。バーイ」


テスタロッサとダンはハーレクインを連れて遺跡の中に入っていった。


「どうしますか? カズン王子様」

「まあ、あの二人なら別にいいんじゃないか」

仮に本当にラファグリポスがあってもあの二人なら悪いことには使わないだろうし。

「せっかくプフが案内してくれたのです。拙者は伝説の石板をみつけたいです」

「プププ」

プフを抱えたスズが言う。


「べっつにどうでもいいわよ、テスタロッサ様たちがみつけてくれれば私はお城に帰れるんだから」

とやる気のないエルメス。


「とりあえず二人が出てくるのを待つか」

「じゃあそれまで私はあの馬車の中で休ませてもらいますね」

そう言うとエルメスは馬車に乗りこんだ。

「もう姉さんったら」


「カズンどの、拙者眠くなってきました。プフもそう言っています」

「今何時だ、カルチェ」

「えー、もうそろそろ深夜一時になります」

「そうか」

俺は今日ある程度寝ていたから気付かなかったがもうそんな時間か。暗いはずだ。


「スズもプフもカルチェも馬車の中に入って休め」

「カズン王子様は?」

「俺は平気だから。ここで二人を待ってるよ」

「それなら私もここにいます」

とカルチェ。


「でしたら拙者も……」

「お前はプフと一緒に馬車の中で寝てろ。ここはいいから」

「プププ~」

「ほらプフも眠たそうにしているぞ」

「は、はい。ではそうさせてもらいます」

そう言ってスズもプフを連れて馬車に乗りこんだ。


俺とカルチェは草むらに横になった。

あー、涼しい風が心地いい。


カルチェと二人きりになって急に静かになる。

虫の声が聞こえる。


「月がきれいですね」

カルチェがぽつりと言った。

「ああ、そうだな」

カルチェはなんだか嬉しそうな表情を浮かべた。


外で月を見上げるなんて何年ぶりだろう。

夜にやることといったらネットか筋トレくらいだったもんな。



「星もきれいだな」

「……」

カルチェは答えなかった。

見るとカルチェは寝息を立てていた。


きれいな横顔をしている。

芸能人だと誰に似ているだろう。

え~と、あれだ……だめだ、名前が出てこない。

最近テレビをみてなかったからな。


俺は目を閉じた。

すると今日の疲れがどっと出てきた。


今日は……長い一日だったなぁ……。


俺はそのまま深い眠りについた。

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