「なあ、いつまで歩くんだ?」
俺たちはエルメスが召喚した魔獣プフの後ろに続くようにして草原を歩いていた。
もうかれこれ一時間は歩きっぱなしだ。
石板のせの字も見えてこない。
「姉さん、あの魔獣好き勝手に飛んでるだけじゃないの?」
「カルチェどのあの子はプフです。拙者がそう名付けましたゆえ」
プフは時折こっちを確認するように振り返りながら俺たちの前をぱたぱたと飛んでいる。
「はぁ、大丈夫よたまには自分の姉を信じなさい。はぁ、それにしても疲れたわね。プフちょっと待って、休憩しましょ」
するとプフはエルメスの言葉に従ったのかスズの頭の上にブモンと着地した。
「まだ一時間しか歩いてないわよ。もう休憩するの?」
「拙者はまだまだ平気です」
「だからあんたたちとは体の出来が違うって言ったでしょ。私は宮廷魔術師なのよ」
汗を拭きながら文句を言うエルメス。
「大体あんたたちが馬車を断るから……」
「俺酔いやすい体質だから……悪い」
「同じく」
「だったら私だけでも馬に乗ったわよ、全く」
「普段運動してないからいけないのよ姉さん」
カルチェが呆れ顔でエルメスを見る。
エルメスは反論する体力も惜しいのかそのまま草むらの上に寝転んだ。
「カズン王子様、どうしますか?」
「そうだな。ちょっと休憩するか」
俺たちはエルメスのそばに腰を下ろす。
「おい、お前はいいのか?」
「はい。拙者はプフと遊んでいますからお気になさらず」
そう言ってプフを頭の上に乗せたまま草原を駆け回るスズ。
無邪気で愛らしい光景だ。
「カズン王子様、訊いてもいいですか?」
隣に座っているカルチェが訊いてくる。
「なんだ」
「カズン王子様はラファグリポスというなんでも願いが叶うなんて石板はあると信じているんですか?」
「そうだなぁ……あまり信じてないけど」
でもまあ俺自身別の世界から連れてこられてるわけだから可能性がゼロとは言えないかもな。
「そうですよね。私も信じてはいません。私は自分の目で見た物しか信じませんから」
「だったらどうしてこの旅について来たんだ?」
「そ、それは……カズン王子様と、その一緒にその……」
声がどんどん小さくなっていくカルチェ。
最後の方がよく聞き取れなかった。
「あ~あ、泣く子も黙る兵士長が形無しね」
「ね、姉さん!? 寝てたんじゃないの!?」
「あんたたちがうるさいから眠れないわよ。それよりカズン王子、さっさとそのラファなんとかっていう石板みつけましょうね。じゃないといつまで経っても私たちお城に帰れないんですからねっ」
横になりながらこっちを振り返ったエルメス。
「お前はあるって信じてるのか」
「信じてはいませんけど信じるしかないじゃないですか」
エルメスは「わたしはさっさと帰りたいんですよ」と愚痴をこぼす。
「プフがあと少しだって言ってますよ」
スズがプフを頭の上に乗せ戻ってきた。
「スズちゃんその魔獣の言っていることがわかるの?」
「え? カルチェどのはわからないんですか?」
不思議そうな顔のスズ。
「私っていうかカズン王子様も姉さんもわからないよね?」
カルチェは俺とエルメスを見た。
俺たちは首を縦に振る。
「みなさんそうだったんですか? ふむ、なぜ拙者にだけはわかるのでしょうか」
スズが首をかしげた。
「それよりスズ、プフはなんて言ってるのよ」
エルメスが立ち上がりスズに向き立つ。身長差が大人と子どもくらいある。
「プフが言うにはこの近くに遺跡のようなものがあるそうです。石板はその中だと」
「この近くなのねっ。カズン王子聞きましたか? そうとわかればすぐに出発しましょう。さあ立って立って」
エルメスがぱあっと表情を明るくさせ俺たちを急かす。
「自分で立てるから服を引っ張るなって。伸びるだろうが」
俺は今着ている服が気に入っているんだ。クローゼットの中にあったいかにも王族って感じの服ばかりの中で唯一俺のいた世界の洋服っぽいこの黒いシャツと黒デニムが。
「さあプフ、私たちをその遺跡へ案内するのよっ」
「プププッ」
プフは重そうな体でブモンと宙に飛び立った。
それから二十分ほど歩いた頃だろうか。
「カズン王子様、前方に遺跡らしいものが見えてきました」
「えっ遺跡があったの?」
エルメスが顔を上げた。
「おお、本当にあったな」
「プフえらい。よくやったぞ」
スズがプフを抱きしめる。
近付いてみるとそこには崩れかけた遺跡があった。