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第44話

「……あっ、カズン様。起きられましたか」

俺が目を覚ますとミアが顔を覗き込んでくる。


俺の額に手を当て、

「お熱も引いたようですね」

と安心した顔でにこっと微笑んだ。


……ここは?


「カズン様のお部屋ですよ」


ミアの言う通り俺は自室のベッドの上に横になっていた。


そうか。武道大会が終わると同時に俺は気を失ってしまっていたのか。

記憶があいまいだ。

多分スズの睡眠薬のせいだな。


ベッドの横には椅子が置かれていた。

きっとミアがそこに座って看病してくれていたのだろう。


「今リンゴむきますね」

「ああ、ありがとう。なあ、俺はどれくらい寝てた?」

「え~と三時間くらいだと思います」

ミアがリンゴの皮をむきながら答えた。


俺は上半身だけ起き上がり窓の外を見る。

外はもう真っ暗になっていた。


「はい、どうぞ」

「悪いな」

俺はリンゴの乗った皿を受け取ると楊枝で刺して口に入れた。

うん、おいしい。


「武道大会、大盛り上がりでしたね」

「ミアも見てたのか?」

「はい、隅の方で」

それは気付かなかった。


「だからカズン様が倒れた時はほんとに心配したんですよ」

とミアが言う。

「でもカズン様。優勝おめでとうございます」

「ありがとう、ミア」


「それで願い事は何にするんですか?」

ミアの質問に俺は黙ってしまった。


こっちの世界に召喚された時はすぐにでも帰りたかったけど、今はここの生活もまんざらでもない。

俺はミアを見た。


「? なんですか?」

ミアが小動物のように首をかしげる。


俺がもとの世界に帰るのは本物の王子が戻ってきてからでも遅くはないよな。


「……まだ決めていないんだ」

「そうですか……あっ! 忘れてました。カズン様が目を覚ましたら謁見の間に来るようにと国王様から言われていたんでした。すみませんっ」

「そうなのか」

国王がねぇ。


「わかった。じゃあ行ってくるよ」

「もう動いて大丈夫ですか?」

俺はベッドから立ち上がった。


「ああ、問題ない」

スズの薬のおかげかな。


俺はミアを置いて部屋を出た。


謁見の間に向かう途中、廊下でメイドや兵士たちに声をかけられる。

「カズン王子優勝おめでとうございます」

「わたし感動しました!」

「王子様ってあんなに強かったんですね。びっくりしましたよ」


もう城内に俺に恐怖する者はいない。

みんな気さくに声をかけてきてくれる。

コミュ障の俺としては返答に困る場面もあるが、悪い気はしない。

嫌われているより好かれている方がいいに決まっているもんな。


謁見の間の前に立つと兵士が扉を開けた。


俺の姿を見るなり玉座に座っていた国王が立ち上がり、

「おお、王子よ。待っておったぞ」

拍手をした。

それにつられるように大臣も衛兵たちも拍手をして迎えてくれる。


「今日は本当によくやった。もう少し休んでいたいところじゃろうが、優勝者にはわし直々に急ぎの話があったのでな」

国王が「もっと近くへ」と手招きする。

俺は仁王立ちする国王の前にひざまづいた。


「話というのは他でもない。優勝者への褒美の件じゃ」


どんな願いでも一つだけ叶えてくれるっていうやつだな。


「……王子はラファグリポスという名を聞いたことはあるかのう?」

ラファグリポス? なんだそれは、っていうか突然なんの話をしているんだこのじじいは。

「知らんような顔じゃの。まあよい、王子が知っておるとは思っておらんかったからの」

じゃあ聞くなよ。


「ラファグリポスとは大昔の言葉で聖なる石板を意味するのじゃ。この古代の聖なる石板ラファグリポスの伝承は様々あるが、唯一重なる伝承として言い伝えられているのがこれを手にした者はどんな願いでも一つだけ叶えられるというものなんじゃ」


なんだか話がややこしくなってきたなぁ。


「これを最近になって小国家のヤコクやサマルタリア、ムーランドらが国を挙げて探しているというのじゃ」

「でも言い伝えなんですよね。本当にあるわけじゃないんでしょう、ましてや願い事がなんでも叶うなんて国王は信じてないですよね」

「ああ、まゆつばじゃ。わしも信じてなどおらん。じゃがのうもし本当にあるとするならば世界を揺るがす各国の争奪戦になる」

伝説みたいなもんなんだろ。手に入れたらドラゴンでも出てくるっていうのか。バカげた話だ。


「たとえどんなにバカげた話であろうと0.00001パーセントでも可能性があるのならうちも手をこまねいているわけにはいかんのじゃ。実際エスタナやパデキアは動き出しておるようじゃ」


要するに何が言いたいんだ?

「俺にそんな話をして一体何が目的なんですか?」


国王が真剣なまなざしで俺をみつめる。


「王子にはラファグリポスを探す旅に出てもらいたいのじゃ」

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