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第42話

「それでは準決勝を始めたいと思います。両者前へ」

アナウンスが聞こえてくる。

もうダンとヴォルコフは闘技場に行ったのか。

「始めっ!」


二人の試合は俺も見たいな。


俺は少し足を引きずりながら控え室から闘技場へと向かった。

スズとカルチェもあとに続く。


目の前が開けた。


とそこにはヴォルコフに足首を持たれて宙吊りになっているダンの姿があった。

ダンはせっかくの派手な一張羅がボロボロになっている。


ヴォルコフはダンの顔を蹴り上げる。


「きゃあぁぁー!」と女性たちの悲鳴が上がった。


「……降参しろ」

ヴォルコフが独り言のようにつぶやく。


「ぐっ、断るよ。ボクは優勝して叶えたい願いがあるからね」

願いとはきっとテスタロッサとの結婚だろう。

この場にテスタロッサがいないのが気の毒だ。


「……ならば場外にするまでだ」

ヴォルコフがダンを放物線状に投げ飛ばした。

しかしダンは空中で一回転すると武舞台に着地した。


「ダン様、もう立たないでっ!」


観客席からそんな声が聞こえてくる。


「ふっ、子猫ちゃんたちが心配しているじゃないか。だめだなぁボクは」

よろけながらヴォルコフに向かって歩いていくダン。

ダンが残る力を振り絞って拳を繰り出した。


だがその拳はヴォルコフに簡単に受け止められてしまう。

「……今までは試合だから死なせいように手加減していたが、それももうやめだ」

ヴォルコフがダンの顔面に渾身の右ストレートを叩きこんだ。


「ぶはぁっ!」


流血とともに武舞台に背中から倒れるダン。


騒然となる会場。


「……し、勝者ヴォルコフさん。さあっ医療班を早くっ!」

司会者が闘技場の脇にいた医療班を呼ぶ。


その時すでにヴォルコフは武舞台を下りていた。


「誠に勝手ながらここで十分間の休憩をとりたいと思います!」

そうアナウンスをする司会者。


「スズ」

「はっ」

「さっきの薬、ダンのところに持っていってやってくれないか」

「わかりました」

そう言うとスズは姿を消した。


「大丈夫ですかね、ダンどのは」

カルチェが訊いてくる。

「問題ないだろ」

スズの薬は相当すごい。実際俺の太ももの刺し傷ももう治っている。

「その証拠にほら」

俺はカルチェに太ももを見せた。

「すごい。あの傷が完治していますよ」

「だろ」


数分後スズが戻ってきた。

「ダンどのは心配なさそうです」

「そうか、ありがとう」


「ご報告があります。ダンさんは大事には至らなかったようです。ご心配おかけしました。それではカズン王子、カルチェさん闘技場に来てください。準決勝第二試合を始めます」

アナウンスが聞こえた。


「よし、カルチェ行くか」

「はい。よろしくお願いします」

「カズンどの、カルチェどの頑張ってください」

スズはガッツポーズをしてみせる。


俺たちはスズに見送られながら闘技場へと赴いた。

武舞台に上がる俺とカルチェ。

観客たちはさっきのアナウンスを聞いてか落ち着きを取り戻していた。


「それでは始めっ!」


「カズン王子様、私の鍛錬の成果を見てください」

「ああ、いつでもいいぞ」

カルチェは剣を鞘におさめたまま構えをとった。

ん? また居合い切りか?


カルチェが強く地面を蹴った。

この前より早くなっている。

瞬間的に俺に近付くとカルチェは鞘から剣を抜いた。

俺はその剣をじっくり見る。

以前使っていたものとはべつのものだ。


しゅっ


俺はすんでのところで斬撃をかわした。はずだったが、


ぶしゅっ


腹から血が飛び出る。


「なにっ!?」


俺は後ろに飛び退いた。

腹からは血が出ている。


どういうことだ? 斬撃はよけたはずなのに……。


「まだまだっ!」


二撃、三撃と追撃してくるカルチェ。

俺はそれらも全てかわしたはずだが体には切り傷が出来ていた。

服が血に染まって赤くなっていく。


「やあぁっ!」


なおも攻撃の手を緩めないカルチェは剣を振りながら前進してくる。

俺はカルチェの腹に前蹴りを入れ距離をとった。


カルチェが腹をおさえながら、

「うぐっ、さすがカズン王子様です。とっさの前蹴りでもこの威力。鎧がなかったら今の一撃でダウンしていたかもしれません。やはり防御に回ると分が悪いですね」

剣を鞘におさめる。


「どういうからくりなんだ? 俺はお前の剣をかわせてるよな?」

「ふふん。私が新しく会得した剣技です。攻撃の際、斬撃をほんの十センチほどですが伸ばすことが出来るようになりました。紙一重で斬撃を避けているカズン王子様には避けたつもりでもあたってしまうというわけです。目がいいのがあだになりましたね」

俺の問いにカルチェが得意げに語る。


バカ正直さが裏目に出たな。

からくりさえわかればもう怖くない。


「いきますっ!」

「もう当たらないぞ、カルチェ」

俺は宣言通り全ての斬撃をかわしてみせた。

俺はカルチェのスピードについていけてないからギリギリでかわしていたわけではない。体力温存のため最低限の動きだけで避けようとしていただけだ。


斬撃が十センチ伸びるならもっと後ろに避ければいいだけのことだ。

「くっ、このっ!」

かすりもしなくなったことに焦ったカルチェに隙が出来る。


「今だ!」


俺は全力の前蹴りを放った。


「ぐあぁっっ!」


カルチェの鎧が砕け、カルチェ自身は場外の壁に激突した。


「勝者カズン王子!」


「おおー! カズン王子が決勝進出したぞ!」

「やらせじゃなかったのかっ」

「だから王子は強いんだってば!」

「兵士長に勝っちまいやがった」

観客たちがざわめき立つ。


ふぅ……それにしても血を流しすぎたな。

カルチェが生真面目な性格じゃなかったら負けていたのは俺だったかもな。

早くスズの薬をもらわないと。



「それではこれより決勝戦を始めたいと思います」

司会者が進行する。

ヴォルコフはいつのまにか武舞台に立っていた。

夕日に当たってヴォルコフの影が長く伸びている。


「ちょっと俺、闘い終わったばかりだぞ」


「そう言われましてももう日が暮れてきましたので巻かないと……」

血だらけの俺に司会者が告げる。

「えー、では決勝戦始めっ!」


おいおい、マジかよ~!

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