「では第二試合に参りましょう。ヴォルコフさんとパネーナさんは武舞台に上がってください」
ダンとロフトと入れ違いにヴォルコフとパネーナが武舞台に上がる。
「待ってろよ、ダン」
パネーナがダンに声をかけた。
「ああ、いいとも」
「……」
二人のやり取りにヴォルコフは無反応だった。
「第二試合始めっ!」
「あんた予選ではすごかったけど実戦はどうぅぐふっ!?」
「……」
司会者のかけ声とともにヴォルコフはゆっくりと前に歩き出し、パネーナが話し始めた次の瞬間パネーナの腹に拳をめり込ませていた。
パネーナは崩れるように倒れこんだ。
「……ヴォルコフさんの勝利ですっ!」
司会者が宣言すると同時にヴォルコフは武舞台を下りた。
会場が静まり返る。
「つ、続いては第三試合を始めたいと思います。カズン王子、スズさん。両者出てきてください」
俺はまだ武舞台に膝をついているパネーナのもとへ駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
「……あ、ああ。なんとかな。情けないぜ、全く」
俺の手を取り立ち上がるパネーナ。
会場から拍手が送られる。
「もう大丈夫だ。一人で歩けるからよ」
ふらふらと武舞台をあとにするパネーナ。
「では第三試合始めっ!」
「カズンどの。拙者、ある願いのため本気で勝ちをとりにいきますゆえ」
スズが短刀を握りしめた。
「ああ、わかっている」
いつものメイド服ではなく忍び装束姿のスズを見れば本気さが伝わってくる。
「はっ!」
スズが武舞台の上を俺を囲むように高速で回りだした。
観客がざわめく。
きっと観客にはスズの残像しか見えていないだろう。
それくらい速い。
だが俺の目はもちろんスズの姿をとらえている。
今だ。
「っ!?」
仕掛けてきたスズの腕を俺はむんずと掴んだ。
もう片方の手でスズの持っていた短刀を奪い取る。
あとは腹に軽くパンチをお見舞いすれば勝負ありだ。
そう思った矢先、
「御免っ」
スズがガリっと何かを噛む音が聞こえた。
その瞬間ピンク色のもやとなんともいえない異様な臭いが辺りにたちこめた。
なんだ?
目の前の景色がぼやけてきた。
「スズ、お前まさか……」
「拙者が今かじったのは睡眠玉です。以前カズンどのに睡眠薬が効いたことを拙者は忘れてはいませんよ」
俺を暗殺しようとした時に口移しで飲ませたあれか?
くっ、まぶたが重い。
「……なんでお前は……大丈夫なんだ?」
「拙者は毒の類いは一切効きませんゆえ。カズンどのが眠ってから場外に落としたいと思います」
まずいな。眠い。眠すぎる。
本当に意識が薄れてきたぞ。
俺は左手に持った短刀を見た。
全く、絶対痛いだろうなぁ。
俺はその短刀を思いっきり太ももに突き刺した。
「んがっいてぇ!」
「なっなにを!? カズンどのっ」
「こうすりゃ痛みで眠気が吹っ飛ぶだろ」
あわあわしているスズの目の前に一足飛びした俺はスズをその勢いのまま場外へ突き飛ばした。
「ごほっごほっ、し、勝者カズン王子!」
刺したのが太ももだから結構血が流れている。
早く止血しないとな。
すると場外からスズが駆け寄ってきた。
「カズンどのっ。拙者の部屋に傷薬がありますゆえ取って参ります!」
俺の血を見て焦っていたのかスズの口調がまた侍っぽくなっていた。
それにしてもスズの持っていた短刀の切れ味は抜群だな。
やっぱりただのナイフとは大違いだ。
「だ、大丈夫ですかカズン王子?」
司会者がマイクを通さず訊ねてくる。
「ああ、気にしないで先進めてくれ」
「で、では第四試合を始めたいと思います。カルチェさん、ナターシャさん前へ」
「カズン王子様……」
カルチェが心配そうに見てくる。
俺はオーケーサインを手でつくり見せてやった。
俺のせいで闘いに気が入らなかったら悪いからな。
俺は武舞台を下りると、闘技場の控室でスズが薬を持ってきてくれるのを待っていた。
「第四試合始めっ!」
司会者の合図が聞こえてくる。
とすぐに歓声が上がった。
そして、
「勝者カルチェさん!」
とアナウンスが響き渡った。
もう勝負がついたのか。
さすがカルチェ。
カルチェが控室に戻ってくる。
「傷は大丈夫ですか? 見せてください」
「ああ、ちょっと痛いけど見た目ほどじゃないよ」
やせ我慢などではなく本当にあまり痛くない。
スズの睡眠薬がいい具合に効いているのかもしれない。
とそこへスズが薬を持って戻ってきた。
「遅くなりました。これを患部に塗ってください。忍びの里の秘伝の薬です」
「おう、助かるよ」
俺はスズの持つ薬を人差し指にとって太ももに塗った。
「ぐっ、いてて……」
ちょっとしみる。
「あ、スズ。これ返すよ」
と短刀を渡す。
「ありがとうございます。カズンどの」
「それ切れ味すごいな」
「えへへ、祖母の形見の品です」
照れくさそうにするスズ。