「みなさま、大変長らくお待たせいたしました。これよりイリタール国王主催の武道大会の本選を始めたいと思います。では出場者の方々、闘技場にお上がりください!」
大舞台に司会者のアナウンスにも力が入る。
闘技場を囲うように四方に観客が集まっている。
その中央の闘技場に俺たちは歩み出ていった。
「おーっ!」
と歓声が上がる中、
「あれカズン王子じゃないか?」
「なんで出てるんだ?」
「この前ダンに勝ったってのはマジだったのか?」
「私その決闘見てたわっ」
といった声もちらほら聞こえてくる。
わかりきっていたことだから今更気にしないが国王主催の武道大会に王子が出てたらそりゃ目立つよな。
しかもつい最近まで評判最悪のバカ王子じゃあな。
「ここでイリタール国王より一言いただきたいと思います!」
来賓席を見上げる司会者。そして観客たち。
来賓席には国王とその隣にはエルメスが座っていた。
「カズン王子ー、頑張ってくださいねー」
エルメスが手を振る。
国王がマイクを持って立ち上がる。
「おほん。えー、今日はみなのものよく集まってくれた。出場者も観客も存分に楽しんでいくがよい。また前より言っていた通りこの大会の優勝者には一つだけどんな願いでも叶えてやろうと思うておる。みな各々の願いのために全力を尽くしてくれ。では健闘を祈る」
「イリタール国王、ありがとうございました! それでは本選を始めましょう。本選はトーナメント形式になっております。こちらで厳正なる抽選をした結果組み合わせは次の通りになっております!」
司会者が続ける。
「第一試合ダンさん対ロフトさん。第二試合ヴォルコフさん対パネーナさん。第三試合カズン王子対スズさん。第四試合カルチェさん対ナターシャさん」
俺はスズと闘うのか。
「それではダンさんとロフトさん以外の方は闘技場を下りてください」
俺たちは司会者に促され闘技場の四角い武舞台から下りた。
「では第一試合始めっ!」
「さあ、いつでも来ていいよ」
剣を優雅に振ってみせるダン。
観客席から黄色い声援が飛ぶ。
この大会は武器も防具も使用可能らしい。
軽装のダンとは対照的に重装備で固めたロフト。
「そのすかしたツラ切り刻んでやるぜっ」
ロフトが重い鎧を身に纏っているとは思えない速さでダンに向かっていく。
「しゃっしゃっ」
右に左に剣を振るうロフト。
しかしダンはそれを紙一重で後ろに下がりながら避けていく。
「きゃあぁー。ダン様後ろ!」
女性の観客から声が飛んだ。
気付けばダンは場外に落ちる一歩手前まで追い詰められていた。
「おっと危ない」
すると、ロフトが武舞台の中央まで退いた。
「あれ、どうしたんだい。せっかくチャンスだったのに」
ダンが首をかしげる。
「誰が場外負けになんてするかよ。オレはお前のツラをグジャグジャにしてやるんだからな」
「ふふっ、ボクの顔がそんなにお気に召さないかい。そういうきみの顔はどんな顔なんだい、仮面の下の顔に興味がわいたよ」
ダンも武舞台の中央付近に歩み寄る。
「抜かせ、キザ野郎がっ」
ロフトが鎧の中に隠し持っていた短剣を投げつけた。
「おっと」
ダンは難無くかわした。だが、ロフトが急接近していた。
「終わりだっ」
ロフトがダンの顔めがけて剣を突いた。
「きみがね」
ダンはそれを華麗にかいくぐると下からロフトの仮面と鎧の隙間を狙って剣を突き上げた。
「っ!?」
仮面が宙高く舞い上がり武舞台に落ちた。
ロフトの額からは血が流れていた。
固まっているロフトの顔にダンは剣を突きつける。
「まだやるかい?」
ロフトは小刻みに小さく首を横に振るのが精いっぱいだった。
「勝者ダンさん!」
司会者が勝ち名乗りを上げると「きゃー! ダン様!」と観客席が女性の叫び声で包まれた。
「きみは素顔の方がいいよ」
ダンが倒れこむロフトに向かってセリフをはいた。