「本当にありがとうカズンくん」
とエスタナ王。
「カズンさん、娘を助けてくれて感謝してもしたりないわ」
とエスタナ王妃。
「いえ、フィアンセが危ない目に遭っていたら助けるのは当然ですから」
「カズンくん、ありがとう。奪われた貴金属も取り返してくれるなんて」
エスタナ王が手を強く握ってくる。
「さあ、テスタもお礼を言って」
「もう言ったわよ」
テスタロッサが退屈そうにぼやく。
おかしいな、テスタロッサにお礼を言われた記憶はないのだが。
「娘は恥ずかしがり屋なものですみません」
「いいんじゃよ。テスタロッサちゃんはそのままでいいんじゃ」
国王の顔がだらしなく緩む。
「ところで我々を襲った盗賊はどうなりましたか?」
「警備隊に連れられて今頃は監獄の中じゃわい」
「そうですか。それは安心ですね。では我々はそろそろ……」
「うちの兵士を護衛につけるとしようかの」
「そう言っていただけると助かりますわ」
「ほっほっほ」
「カズンくん本当に今日はありがとう。また会おう」
「カズンさん、今度はうちの国に遊びに来てくださいね」
「はい、ありがとうございます」
俺はエスタナ王とエスタナ王妃と握手を交わした。
「じゃあテスタ、カズンくんにお別れを言って」
「いいわよ、別に」
「テスタ。カズンさんにさようならって」
「子ども扱いしないでったら! わかったわよっ……カズンまたね。行くわよハーレクイン」
テスタロッサが後ろを向いて言った。
俺の肩の上に乗っていたハーレクインがテスタロッサについていく。
「ではこちらへどうぞ」
近くにいたカルチェがテスタロッサたちを馬車までエスコートしていく。
俺と国王はその姿を見えなくなるまで見送った。
「お主よ、今日はようやってくれた」
「まあ、一応今のところはまだフィアンセなんで」
「ほっほっほ。そうかそうか」
何度もうなづきながら国王は自分の部屋へと戻っていった。
俺も部屋に戻るか。
部屋のドアを開けると、
パァーン!
とクラッカーが鳴らされた。
クラッカーから飛び出たひも状の長い紙が俺の顔にかかる。
……なんだこれ?
「カズン様、お誕生日&テスタロッサ様救出おめでとうございます!」
ミアが俺に向けてクラッカーを構えていた。
誕生日? 俺の?
部屋の中を見ると壁に張った紙に【カズン様。お誕生日おめでとうございます】の文字が書いてある。
「ミア。もしかして今日は俺の誕生日か?」
「はい。もしかしなくても誕生日です。カズン様の」
そうか。俺じゃなくて本物のカズン王子の誕生日なのか。
「こちらバースデーケーキです。わたしの手作りです」
テーブルの上には大きなケーキが置かれていた。
正直カズン王子の誕生日なんてどうでもいいがミアが楽しそうにしているからよしとしよう。
「それにしてもずいぶんタイミングがよかったな」
クラッカーを発射するタイミングがばっちりだった。
「それはスズちゃんのおかげです」
と天井を見上げるミア。
どういうことだ?
その時天井の板が外れにゅっと、
「おめでとうございます、カズンどのっ」
天井裏からさかさまに顔を出したのはスズだった。
「わっ、スズ。お前、俺を監視するようなことはするなって言っただろうが」
「すみません、カズン様。わたしが頼んだんです」
とミアが頭を下げる。
ミアは天井裏から飛び降りたスズを抱きしめて俺に向かって言った。
「わたしがスズちゃんに無理を言ったんです。だから怒るならわたしに怒ってください」
「いや別に怒っているわけじゃないから。全然いいんだけど」
楽しそうに俺の誕生日を祝ってくれているミアを怒ったりなんて出来るわけない。
「カズンどのっ。プレゼントがありますっ」
「これどうぞ。スズちゃんと二人で作りました」
ミアが俺に差し出した物は木彫りの熊の置物だった。
「おおう! なんだこれすげぇな。手作りかこれ?」
「はい。聞いてください。スズちゃん小刀の扱い方がすごいんですよ。手慣れてるっていうかプロっていうか……」
そりゃあスズはくのいちだからなぁ。
「えへへ」
顔をほころばせるスズ。
「あっでも」
と言って顔を近づけるミア。
「本当の誕生日はまた別でわたしがプレゼント用意しますね」
にこっと微笑む。
本当の誕生日って言うのはこの俺、秋月勇気の誕生日ってことか。
それは今から楽しみだ。
「二人とも本当にありがとう」
「喜んでもらえてよかったです。ほんとは他にも何人か集まる予定だったんですけどテスタロッサ様の件でいろいろ大変だったので」
「カズンどの、嬉しいですか?」
「ああ、嬉しいよ。ありがとう」
ミアとスズの満足そうな顔が見れただけで今日の疲れが吹っ飛ぶなぁ。
それにしてもカズン王子の誕生日なんて大事なことエルメスはなんで教えておいてくれなかったんだろう。
「知りませんでした。すいません」
とエルメスが言う。
ここはエルメスの部屋。
ミアとスズに誕生日を祝ってもらってから一時間後のことだ。
「っていうかカズン王子の誕生日なんてミアくらいしか知らないですよ多分。テスタロッサ様だって何も言ってなかったでしょう」
そういえばそうだ。テスタロッサはおろか国王さえも何も言ってこなかった。
「俺って嫌われているのかな?」
「あなたっていうよりカズン王子がってことですね。でも最近ではカズン王子の評判もなかなかですよ」
「ふーん、そうなのか」
「どうでもいいですけどそれなんですか?」
エルメスが俺の持っている物を指差した。
「木彫りの熊だ」
「……あなたの好みがよくわかりません」
首をかしげるエルメス。
決して俺の好みではない。が、何かお返ししたい気分だ。
「なあ、エルメス。この世界にはクリスマスとかってあるのか?」
あるのならプレゼントを渡す口実になるのだが。
「ないですね。なんですかくりすますって?」
「ないのかよ。じゃあ正月とかもないのかー」
「お正月はありますよ」
「えっ、あるの?」
「はい。お酒飲んだり騒いだりするやつですよね」
微妙に違う気もするが……まあいいだろう。
「じゃあ来年のお正月は城内で兵士も衛兵もメイドも町民たちもみんな呼んでみんなで大宴会しよう!」
「いいですねー。お金はカズン王子持ちで」
「ああ、そうだな」
「やったー!」
エルメスが飛び跳ねてとんがり帽子を落としそうになる。
そして年が明けた。