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第34話

「うん。順調に育ってるな」

俺は畑に水をやりながらつぶやいた。


大根の葉もほうれん草も大きくなってきている。

この辺りは暖かいから冬を越したくらいで収穫できるようになるかな。


俺は中庭の方に目をやった。

兵士たちが訓練にいそしんでいる。

もちろん中にはカルチェやパネーナの姿もあった。


「頑張ってるなぁ」

俺も部屋に戻って筋トレでもするか。


すると一人の兵士が、

「カズン王子様、国王様がお呼びです。国王様の部屋まですぐ来るようにとのことです」

声をかけてきた。


「そうか、わかった。ありがとう」

何の用だろう?

俺はとりあえず国王の部屋へと向かうことにした。


国王の部屋のドアをノックすると中から返事があった。


「王子か。入っとくれ」

俺は国王の部屋へと足を踏み入れた。


「呼び寄せて悪かったの、話というのは他でもない。わしの妻のことじゃ」

国王の奥さん?

そういえば聞いてなかったな。


国王は続ける。

「今日はわしの妻つまりお主の母親の三回忌じゃ。ちょうど三年前の今日病気でな……まあ、そんなことはよいとして今日はテスタロッサちゃんとテスタロッサちゃんのご両親も来てくださる。わしは湿っぽいのは嫌いじゃからいいと言ったんじゃがのう。じゃから失礼な振る舞いのないようにな」


「はい。わかりました」

そうか、お妃はもう亡くなっていたのか。


「そうそう言い忘れたが、くれぐれもテスタロッサちゃんのご両親にはバレんようにな」

と釘を刺された。

「お主はどこか抜けとるからのう」

「はは、すいません」

あんまりそういうことは言わないでほしい。フラグが立ってしまう。



国王と俺は謁見の間でテスタロッサとその両親の到着を待った。

そして、外が慌ただしくなる。

馬のいななきが聞こえた。三人を乗せた馬車が着いたようだ。


しばらくして謁見の間の扉が兵士によって開かれる。

向こうからテスタロッサとその両親とおぼしき男性と女性が現れた。

いや、でも女性の方はかなり若く見える。お付きの人かな。


「お久しぶりです国王陛下」

テスタロッサが一歩前に出る。

「久しぶりじゃのテスタロッサちゃん。それからよく来てくださったエスタナ王。そして王妃も相変わらずお美しい」

「嫌だわ。もうおばさんですわよ」

「いやあテスタがどうしてもというので、無理を言ってすみませんでした」

 やっぱりテスタロッサの両親だったらしい。


「エスタナ王様、王妃様お久しぶりです。本日はお日柄もよく……」

俺はテスタロッサの両親にかしこまって挨拶をした。

おそらく初めましてではないはず。


すると、

「?」

「?」

エスタナ王とエスタナ王妃が目を丸くする。


「カズンの奴はそんなバカ丁寧な挨拶などせんわい。普通でよいのじゃ」

国王が小声で俺に耳打ちした。


「ねぁ、カズン。カズンの部屋に行きたいわ」

「ん、そ、そうか」

テスタロッサの助け舟のおかげでなんとかボロを出さずに済んだ。と思う。



「あんたねぇ、そんな調子でよくあたし以外にはバレずに過ごしてるわね」

とテスタロッサ。

俺の部屋に着くなり俺の胸を小突いてきた。


「キュイイィッ」

テスタロッサの顔の横に浮いていた魔獣、ハーレクインも俺に体当たりしてくる。


「いや……実はメイドの一人にバレた」

「はぁ? あんたってドジねぇ。前のカズンよりあんたの方がマシっぽいから黙っててやってるのよ。もっとしっかりしなさいっ」

「ああ……うん」

テスタロッサは俺と二人きりの時は普段に輪をかけて言葉が悪い。

本当にこれで王女なんだろうか。


「とにかくあたしの親の前では黙ってた方がいいわねあんた」

「ああ、そうするよ」

親戚の集まりで黙りこくっているのは慣れている。


「それはそうと、あんた」

そう言うとテスタロッサは俺の顔に手を寄せ、

「エルメスと付き合ってるってどういうことなの?」

俺の頬をつねった。


「あたしっていうフィアンセがいるのに――」

どこで話を聞いたのかテスタロッサは俺とエルメスのことを知っていた。

「ほれはほはいだよ。ほはい」

「ほはいって何よ?」

俺は後ろへ飛び退いた。

「誤解だって。わけあって恋人の振りをしただけだ。他意はない」

「ほんとでしょうね? まあ、それはあとでエルメスにも聞くとして……」


テスタロッサは続けて、

「……話は変わるけど一つだけ確認してなかったことがあるわ」

と急に神妙な顔つきになるテスタロッサ。

なんだ?

「あんた恋人とかフィアンセはいるの? もちろんこの世界でのことじゃなくて向こうの世界でのことよ」


いつになく真剣な顔をするから何かと思えば。

「いないよ。自慢じゃないが俺はモテないからな」

「ふ、ふーん。ま、まあそんなことだろうとは思ってたけどね」

安堵の表情を浮かべるテスタロッサ。

なんだってんだ一体?


「さ、そんなことよりおばさんのお墓参りに行きましょ」

俺はテスタロッサに手を引かれ部屋を出た。



大きいな~。

カズン王子の母親のお墓を見て俺は思わず、そうこぼしそうになった。

石で作られた祭壇は一軒の家くらいの大きさはある。


カズン王子の母親のお墓は意外と城から近いところにあった。

俺と国王とテスタロッサとエスタナ王とエスタナ王妃は歩いてここまで来た。


みんなでお墓の前で目を瞑り手を合わせる。


十数秒経った頃、国王が、

「湿っぽいのは妻もわしも望んでいませんからそろそろ帰りましょうか」

と言い出した。


みんなが帰路につく中、俺はお墓に戻りまた手を合わせた。


すみません。俺は今あなたの息子さんの振りをして周りをだましています。でも息子さんの名を汚すことのないよう努力します。ですからもう少しだけ、いつか本物のカズン王子が帰ってくるその時まで温かく見守っていてくださると嬉しいです。


「何してるのカズン、置いてっちゃうわよー」

テスタロッサが大きく手を振る。

「今行くよ」


ではまた来ます。



それからみんなで昼食を食べた後、テスタロッサたちはエスタナ国へと帰っていった。

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