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第33話

「誰って、俺はカズンだよ」

俺は少し声が震えながらも答えた。


「数週間ほど前からカズン様の口調やわたしたちに対する態度がお変わりになられたのは気付いていました。でも別人だったなんて」


「や、やだなぁ。俺はカズンだって言ってるだ――」


「本当のことを言ってください」

俺を真剣な顔でまっすぐみつめるミア。

うーん、これはもうごまかしきれないのかな。

本当のことを言うしかないか。


「あの、実は……」


俺は正直に本当のことを洗いざらいミアに話して聞かせた。



「……本物のカズン様は家出!? あなたは異世界からやってきた秋月勇気さん!? 国王様もエルメス様もそのことをご存知だったと?」


「ああ……あとテスタロッサも知ってる」

あいつの場合はバレたんだけどな。


「俺のこと誰かに話すか?」

「……正直どうしたらいいのかわかりません。時間をもらえますか」

そう言うとミアは部屋を出て行ってしまった。


俺はベッドに横になり天井を見上げた。


長く本物のカズン王子に仕えてきたミアだからこそ思うところがあるのだろう。

もしミアが俺の存在を否定するなら仕方ない。

その時はこの城を出て遠くに旅にでも出るか。

この世界のことはまだよくは知らないが多分なんとか一人でもやっていけるだろう。


ミアにバレてしまったこと国王とエルメスに話しておくか。


俺は立ち上がると国王のもとへと向かった。

だが国王は来賓客と会談中だったらしく会うことは出来なかった。


「先にエルメスのところへ行くか」

俺はエルメスの部屋へと足を運んだ。



「バカなんですか?」

エルメスの第一声だ。

「テスタロッサ様に続いてミアにまでバレるなんて」

エルメスが腰に手をやりモデルのような決まったポーズで俺を見下ろす。


「悪い」

「悪いじゃないですよ。どうするんですか、もしミアが誰かに喋っていたら」

「時間をくれって言ってたから多分まだ大丈夫だとは思うけど……」

「はぁ……あなたって人は。この件に関しては私も共犯なんですよ」


そう言われてもカズン王子の好き嫌いなんて知らなかったしなぁ。

「カズン王子の嫌いなものくらい教えておいてくれてもよかったんじゃないのか」

「あっ私のせいにするつもりですかっ?」

「いや、そうじゃないけど」

「とにかく国王様にも相談しましょう」

部屋を出ていこうとするエルメス。


「ちょっと待て、エルメス。俺もそうしようと思ったけど、国王は今は誰かと会談中で忙しいから……」

「こっちの方が重要案件です!」

エルメスは俺の手を取ると部屋を飛び出した。



猪突猛進のエルメスは衛兵が止めるのもお構いなしに国王の部屋へと踏み込んだ。


「なっ、なんじゃいきなりお主らはっ!?」

国王が当然の反応をみせる。

「……っ」

国王の前に座っていた高級品で身を固めた老婦人が口をあんぐり開けている。


「すみません国王様、急を要するお話がありましてとりあえず私の部屋に来てください!」

「お、おい、ちょっと待てエルメスや、おいっ」


困惑する国王を部屋から力づくで連れ出すエルメス。

こうと決めたら周りが見えなくなる性格なのか老婦人には目もくれない。

こいつを怒らせるのはやめよう、なんとなくそう思った。


「いたっ、いたたっ、痛いと言うておろうがっ。手を放さんかエルメスよっ」

廊下の途中でエルメスの手を振り払う国王。

「なんなのじゃ一体!?」


周りに誰もいないことを確認してエルメスが、

「またバレました。カズン王子の正体が」

「なんじゃとっ!? こ、今度は誰にじゃ?」

「ミアです」

「ミアというと王子付きのメイドか……」

「はい」


国王とエルメスは二人して俺をジト目で見る。

「お主はどこか抜けておるのう」

「全くです」

「はいはい、全部俺が悪いですよ」

テスタロッサにバレたのもミアにバレたのも。


「して、ミアはなんと言うておるんじゃ?」

「まだ保留中だそうです」


とそこへ、


「こんなところにいらしたんですね。国王様とエルメス様も」


ミアが廊下の反対側からやってきた。


「三人だけでまた何か企んでいるんですか?」

「企むなど人聞きの悪い、わしらは別にのう?」

「ええ、そうですよミア」


「わたし、決めました!」

ミアが大きな声を上げた。


「さっきまでお城のメイドや兵士の方たちにお話を聞いていたんです。ここ最近のカズン様はどうですかって。そうしたらみなさん口をそろえてカズン様のことをほめていました……ちょっと前までなら考えられないことです」


俺と国王とエルメスは目を見合わせる。


「目の前のカズン様が本物のカズン様じゃなくてもわたしは今のカズン様の方が好きです。だからわたしはこの秘密を胸にしまいたいと思います」

ミアは胸に手を置いた。


「おお、そうかミアよ。よくぞ言ってくれた」

「ありがとう、ミア」

「悪いな……ミア」


「これからもよろしくお願いしますね、カ・ズ・ン・さ・ま」

その時ミアの意地悪そうな、そして楽しそうな顔を俺は初めて見た。

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