昼になるとメイドと兵士たちがこぞって食堂へ向かう。
俺の横を何人かのメイドと兵士が通り過ぎていった。
「王子お疲れ様です」とみな一様に気さくに挨拶してくれる。
そんな中一人だけ俺のそばに来てひざまづく人間がいた。
スズだ。
「おい、やめろって。誰かに見られたらどうするんだ」
「忍びが雇い主にかしづくのは当然のことですから」
忍びならもっと忍べよ。
「いいから立てって。あ~あ服も汚して」
「大丈夫です。洗えばすぐきれいになります」
とメイド服を脱ごうとしだした。
「お、おいいっ!? 何やってるんだスズ!」
「何とは?」
キョトンとした顔をするスズ。
こいつには一般常識がないのだろうか。
とそこへ、
「危ないっ!」
兵士同士で打ち合った剣が回転しながら飛んできた。
俺がそれを掴もうとすると
「はっ!」
とスズが飛び蹴りで飛んできた剣を蹴り落とした。
スカートがふわりと舞う。
見ていた兵士たちが固まった。
うーん、こいつにメイドは無理かもしれない。
そう思った矢先、
「スズちゃーん。お昼行くよー!」
一人のメイドが親し気にスズを呼ぶ。
「はい、今行きます!」
「では失礼」と俺に向かって頭を下げてからメイドの方へと走っていったスズ。
……まぁ、もう少し様子を見るか。
俺は昼食をとりに一度部屋に戻り、一時間後再度畑づくりを再開した。
雑草が多い部分は手で抜き、少ない部分はクワで耕してからあとで拾う。
そうやって夕方ごろにやっと畑が形になった。
「あとは石灰をまいてもう一度軽く耕したら今日は終わりにしよう」
石灰をまく理由は土を中和するためだ。
酸性の雨が降り、酸性になった土をアルカリ性の石灰で中性にしてやるのだ。
そして一週間あけて肥料をやり、また一週間ほど期間をあけてから種をまく。
ニート生活で得た知識も少しは役に立つな。
俺は一連の作業を終わらせると夕食をとり、風呂で汗を流してから眠りについた。
「野菜作りの方は上手くいっていますか?」
ミアが訊ねる。
「ああ、今日種をまいてあとは収穫を待つだけだ」
今日で畑づくりから二週間目。やっと種をまくことが出来る。
上手くいけば大根とほうれん草が沢山採れるぞ。
この世界に来てから……というより、もとの世界にいた頃も含めて労働らしい労働は久しぶりだからな。
やはり太陽の下で体を動かすと気分がいい。
今度は外で筋トレをしてみるかな。
俺は長靴をはき、畑にうねをつくってから種まきをした。
「最初はたっぷり水をやってと……」
「ほっほ。精がでるのう王子よ」
渡り廊下から俺の作業するところをずっと眺めていたらしい国王が声をかけてくる。
俺は国王を見上げ、
「俺には仕事らしい仕事がないので時間があり余っているんですよ。あ、それからスズの件、無理を通してもらってありがとうございました」
「なぁに、かまわんよ。スズも他のメイドたちに可愛がられているようじゃしの」
「ほっほっほ」と国王の笑い声が降ってくる。
「それとな……」
国王が続けて話す。
「王子としての初仕事が決まりそうじゃぞ。昼食の後、謁見の間に来るがよい」
「どういうことですか?」
「来ればわかるわい」
とのことだった。
初仕事? なんだろうな。
あれだけ暇だから何か役に立ちたいと思っていたのに、楽しみな反面ちょっと面倒くさいと思ってしまっている自分がいた。
ニート癖はなかなか抜けないな。