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第20話

「何してるんだお前?」

「はっ! 起きてしまったか。不覚」

俺が起きたことに気付いたメイドは俺の上から飛び退いた。


「拙者の顔を見られたからには生きては返さん」

メイド服を着た侍みたいな喋り方の女はナイフをもう一つ取り出して二刀流になった。


「生きては返さんってここは俺の部屋なんだけど……」

それに暗くて顔もよく見えないんだが。

「問答無用!」


女は飛び掛かってくる。


なかなかいい動きだな。

俺は寝ぼけまなこでそんなことを思った。

でも遅い。


がしっ


女の両腕を掴む。


「なっ!? くそっ。放せ貴様っ」

「だからここで何してるんだ? お前は誰だ?」

「くっ、しからば奥の手っ」

「っ!?」


女が俺にキスしてきた。

ふわ~と甘い香りがする。

するとなぜかぼんやりとしてきた。


「あれ、なんらこれ? なにをひた?」

なぜかろれつが回らない。

まぶたが重くなってきた。

あ~……。

俺はそのまま眠りに落ちた。



「おい、起きろ。貴様、さっさと起きろ」


俺が次に目を覚ますと縄で椅子に両手両足を縛られていた。


「貴様なぜ刃物が刺さらないんだ? どういうことだ」


女がナイフを俺に向けて訊いてくる。


「話すからその前に教えてくれないか。これは一体どういうことなんだ?」

「ふん、まあいいだろう。もう貴様は手出しが出来ないのだからな」

女は腕を組んで俺を見下ろしながら言った。

「拙者はくのいちのスズだ。貴様の命をもらい受けにやってきた」


「そのメイドの恰好は?」

「城に入るための変装だ」

メイド服を着てれば誰でも城内に入れるのか? 不用心だなぁ。 


「くのいちってことは誰かに雇われているんだよな?」

「当然だ。雇い主あっての忍びだからな」

「それは誰だ?」

「話すわけなかろう」


「そっか。なあ、ちなみに今何時だ? 暗くてよく見えないんだ」

「ふん、これだから素人は。拙者は夜目がきくからどんなに暗くても見えるぞ。どれ、もうすぐ零時になるところだ」


エルメスが言ってた今日よくないことが身に起こるっていうのはこのことか? 心配して損した。


「次は拙者の番だ。貴様の弱点を教えろ」

スズはまたも俺にナイフを向けた。

「眠り薬は効いたから何かあるはずだ」


「……嫌だと言ったら」

「なんだと?」


俺は力を込めてぶちぶちっと両手両足の縄を引きちぎった。


「なっ!?」


そのままスズのナイフを取り上げスズの首に突きつける。


「勝負あったな」

「……くっ、無念」


「それで雇い主は誰だ?」

「拙者は忍びだ。死んでも話さん」

「任務に失敗したのにか?」

「死んでも話さん。好きにしろ」


「そうか、わかった。じゃあ……」


スズは目をつぶった。死を覚悟したのだろう。


「帰っていいぞ」

寝込みを襲われてもなんともないんだ。こんな奴全然怖くない。


「……は? ど、どういうことだ? 情けなら無用だぞっ」

「ほら、いったいった。俺はお前のせいで眠いから寝る」


目を丸くするスズ。


「……ま、待てっ……せ、拙者は任務に失敗した。このままおめおめとは帰れない」

知るかよ。

「よってここで自害する」

「おい、なんでそういう話になるんだよ」

「御免っ」

隠し持っていた三本目のナイフで腹を切ろうとするスズ。


「わっ待て待て」

「放してくれっ、邪魔をするなっ」


俺の部屋で自殺なんてされてたまるか。


「わかった。俺がお前を雇う。だから死のうとするな」


「…………え、それは本当か?」


「ああ。明日からその恰好で来い。国王には上手く話しておくから」

メイド兼兵士として雇ってやる。一粒で二度おいしい。


「一度任務に失敗した忍びを雇ってくれるとは……なんと心の広いお方だ」


ゴーンゴーンゴーン……。


時計の鐘が鳴る。

長い一日が終わった。

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