「姉さんひどいっ! 私にあんな嘘つくなんて」
「ごめんごめん。あの時はついノリで――」
「私カズン王子様の前で、し、下着姿になったんだからねっ!」
ここはエルメスの部屋の外。
ドアの一枚向こうで姉妹が言い争いをしている。
「えー、やらしー」
「ふざけないで! 姉さん、私本気で怒ってるのよ。姉さんなんかその気になれば一瞬で落とせるんだからね」
「私だって魔術で呪えるわよ」
「姉さんっ!」
「あのう、エルメス、カルチェ。喧嘩はそのくらいで――」
「「黙っててくださいっ!!」」
取り付く島もない。
俺は二人が落ち着くまで自分の部屋で時間を潰すことにした。
「……寝るか」
ベッドに横になると目をつぶった。
静かだ。
穏やかな時間が流れている。
やっぱり一人が気楽でいいや。
はぁ…………。
「……てください。カズン王子、起きてください。カズン王子ってば!」
「ん……うん……おおっエルメスか……」
どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。
「今何時だ?」
俺は時計を見た。
時計の針は午後六時をさしていた。
「先ほどは取り乱してしまって申し訳ありませんでした」
カルチェが頭を下げる。
「いや、俺の方こそごめん」
「カズン王子様は何も悪くありません。悪いのは姉さんですから」
「ちょっと、また蒸し返す気? ちゃんと謝ったでしょ」
「それが本当に悪いと思っている人の態度なの!」
「はぁ? よく言うわね。あんたなんか――」
また始まった。もう勘弁してくれ。
「仲直りしたんじゃなかったのか、二人ともっ」
「……重ね重ね申し訳ありません。カズン王子様。ほら、姉さんも」
「……すいませんでした」
「では私たちはこれで失礼いたします」
「あ、ちょっと待ってカルチェ。これやるよ」
俺は露店商のおばさんから買ったイヤリングをカルチェに手渡した。
「え、これを……私に、ですか?」
「ああ」
「……本当にいただいてもよろしいんですか?」
カルチェが上目遣いで俺を見る。
「遠慮せず」
「ありがとうございます。大事にしまっておきます」
「使ってくれ」
「カズン王子、あなたって人はつくづく……」
エルメスが目頭を押さえて顔を近づけてくる。
「つくづくなんだよ」
「あれってミアにあげた物と似てますよね」
「ああ、同じところで買ったからな。ミアのは星型でカルチェのは三日月型なんだ。ん、もしかしてエルメスも欲しかったとか」
「これだから童貞は」
「あ、そうそう。アクセサリーじゃないけどこれ、エルメスにやるよ」
「なんですか……えっ! これ温泉の宿泊券じゃないですかっ。いいんですか、ラッキー!」
「二人分あるから姉妹水いらずで行ってきたらどうだ」
「そんな……私、あんな悪口言ったのに……カズン王子ー!」
エルメスが抱きついてくる。
そんなに温泉が好きだったのか。よかったよかった。