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第14話

こっちの世界に来て三週間が経った。こっちの世界にもだんだん馴染んできたと思う。

前の王子は俺が言うのもなんだがよほどクズだったらしく俺に入れ替わってからは王子の評判もまずまずだ。

ちなみに俺の正体を知っているのは国王と俺を召喚した張本人である宮廷魔術師のエルメスとフィアンセのテスタロッサだけだ。


おっとテスタロッサと言えば今日はそのテスタロッサがエルメスから魔獣を受け取りにやって来るんだったな。


「テスタロッサか……苦手だな」


俺の正体を唯一見破った相手だ。

フィアンセという立場でありながら俺を脅してくる。

カズン王子のことが死ぬほど嫌いだったらしい彼女は俺が入れ替わりだと知って対応を決めかねているようだ。


「顔合わせたくないな」


「そんなこと言って、テスタロッサ様が聞いたら傷つきますよ」

ミアが朝食の食器を片付けながら返した。


「そうかなぁ、傷つかないと思うけど」


「今日はエルメス様に会いに来るようですからカズン様の方からエルメス様のところへ行ったらどうですか?」

「うーん、そうだな。気が向いたらな」

気が向くことはないと思うが。


「では失礼しますね」

ミアがお辞儀をして部屋を出ていった。


「はぁ…………筋トレでもするか」

重力が十分の一のこの世界で筋トレがどれだけ効果があるかはわからないが気晴らしにはなる。

俺が腹筋をしていると城内が慌ただしくなった。


「テスタロッサの奴が来たな」


俺は自宅に親戚が来たとき同様、意地でも自分の部屋から出ないと心に決めた。

だがその決心は儚く破られることとなる。

一時間後のこと。


「おい、王子よ。テスタロッサちゃんが来てるぞい。早くお主も来んか」

「はぁ」

国王がわざわざ俺の部屋に来た。このおっさんはテスタロッサのこととなると甘いんだからな。

国王命令とあっては仕方がない。

俺は気乗りしないが謁見の間へと足を運んだ。


部屋にはすでにテスタロッサが来ていた。エルメスもいる。

俺に気付くとテスタロッサは可愛らしく手を振ってみせた。

その姿に衛兵たちが顔をほころばせる。もちろん国王も。


俺は並んだ衛兵の前を通り、大臣に軽く会釈をして国王の前にひざまづいた。


「顔を上げい、王子よ」

「はっ」


「大臣と衛兵たちは下がってよいぞ」


国王の一言に大臣が驚く。


「な、何をおっしゃられるのです、国王様。衛兵を下がらせるなどましてやわたくしめを部屋から出すなどと――」

「わしは四人で話したいことがあるのじゃ。大臣よ、わしの言うことが聞けぬのか」

眼光鋭く大臣を見据える国王。

テスタロッサを前にした時とはえらい違いだ。


大臣は衛兵を引き連れてしぶしぶ部屋を出ていく。


全員が出ていったのを確認してから国王が口を開いた。


「テスタロッサちゃん、ずばり訊くが王子のことはやはりもう?」

「はい、バレていますわ」


「はぁ」とため息をつきながら俺を見る国王とエルメス。


「なんだよ二人して」


「率直に訊くが入れ替わりと知ってなお王子と結婚する意志はあるのかのう」

「う~ん」

と指をあごにつけて、

「それはお義父様、正直言ってわかりません」

「わからないというのはどういうことじゃな?」

「だってあたしこの人のことをまるで知らないんですもの」

テスタロッサが俺を指差す。

俺もだよと見返してテスタロッサの顔の横にふわふわ浮いている生物に目がいった。


カピバラにちっこい羽がはえたような不細工なこいつは……あの時の魔獣だ。


「キュイイィッ」


魔獣が俺に体当たりしてきた。


「こら、やめろって」

そうだ。こいつは人間の考えていること読めるんだった。


「やめなさいハーレクイン」

テスタロッサの言葉に魔獣は素直に従った。


ハーレクインていうのか、この魔獣の名前? ずいぶん仰々しい名前を……。

おっと、余計なことは考えないようにしないとな。


「おほん、話は戻るがテスタロッサちゃん。この男は顔は王子に瓜二つでなかなかのもんじゃし、むしろ中身はこっちの方がよいかもしれん」


「だとしてもあたしは――」


「たのもーう!」


バンッ!


大きな声とともに謁見の間の扉がいきなり開かれた。

俺と国王とエルメスとテスタロッサは声の主を見る。

そこには今にもフラメンコを踊りだしそうなひらひらのついたきらびやかな衣服を身に纏った青年が立っていた。


「誰じゃお主は? どうやって入ってきおった?」


「ダン!? なんであんたがここにっ!?」


テスタロッサが激しく動揺する。


「テスタロッサ?」

「テスタロッサちゃん?」

「テスタロッサ様、お知り合いですか?」


「……ええ。こいつはあたしの元フィアンセよ」

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