「カルチェ、あんたって本当にいつもいつも間が悪いわね」
「間が悪いってどういうことよ! それよりどうして姉さんの部屋にカズン王子様がいるわけっ!?」
「あー面倒くさいわね、も~!」
俺をほっぽってヒートアップしている二人をみかねて、
「ちょっと落ち着いて二人とも。なに、エルメスはカルチェのお姉さんなの?」
俺は二人を交互に指差して訊いた。
「はいはい、そうですよ私たちは姉妹。わたしが姉のダールトン・エルメスです」
「カズン王子様、お見苦しいところを大変失礼いたしました! ほら姉さんも謝って」
カルチェがエルメスのローブの袖を引っ張る。
「別に謝る必要ないでしょ」
「なっ!? す、すみません、カズン王子様。姉さんの無礼をお許しください」
何度も頭を下げるカルチェ。
「気にしないでいいよ、カルチェ。きみももっとラフに話してくれてかまわないから」
「そんな滅相もない」
「あんたって相変わらずお堅いわねー。そんなだから恋人ができないのよ」
「そ、それは姉さんだって同じでしょっ」
「あんたよりはモテるわよ!」
また姉妹喧嘩が始まった。
俺は蚊帳の外だ。
それにしても姉妹の割には見た目も性格もあまり似てないな。
特に……。
俺は二人の胸のあたりに目線を落とした。
妹のカルチェの方が鎧で分かりにくいが姉のエルメスよりかなり大き――。
「いてっ!?」
「セクハラはやめてください、童貞王子」
エルメスが俺の目めがけて指を入れようとしてきた。恐ろしい奴。
「あっぶねぇ~。お前なぁ――」
「あの、童貞王子…………ってどういうことですか?」
カルチェが目を細める。
俺はエルメスを見た。エルメスも俺を見る。俺たちは目を見合わせた。
「カズン王子様は二日に一回夜伽の時間があると聞いたんですが、それなのに……童貞?」
二人ともあまり童貞童貞言わないでくれ。恥ずかしい。
「あー、それはねカルチェなんていうか、そのー」
しどろもどろになるエルメス。
実は嘘をつくのが苦手なのか?
「そう、あれよ! 夜伽っていうのはカモフラージュなのよ! カズン王子は本当は男が好きなのよっ!」
エルメスが苦し紛れに変なことを言いだした。
「え、カズン王子様は男好きなの?」
「そ、そうなの。カズン王子は女に興味がないのよ。でも対外的にそれだといろいろまずいでしょ。テスタロッサ様もいるし」
「……」
カルチェは言葉を失った。
「だからこれは私たちだけの秘密よ。わかったわね、カルチェ」
「……ええ、わかったわ」
エルメスはカルチェの手を握りしめた。カルチェも強く握り返す。
カルチェは俺に向き直ると、
「カズン王子様、安心してください。私口は堅いので絶対に秘密は守りますから」
「あ、ああ。ありがとう」
余計な秘密が一つ増えてしまった。