「泊まっていったらどうだい、テスタロッサちゃん。もうわしらは家族みたいなもんなんじゃから」
「いえ、今日中に帰ると言って出てきたので」
「だったらせめて夕飯だけでも食べていったらいいじゃないか」
なんとか引き留めようとする国王。必死か。
だがテスタロッサも折れない。
「また次の機会に時間をとって伺いたいと思います。その時は是非泊まらせてくださいね」
「う~む、そういうことなら……」
しぶしぶ国王が折れた。
ここはエルメスの部屋。
久しぶりに秘密を知る三人で話し合いを持つことにした。
「テスタロッサちゃん、可愛かったのう。あの子が娘になる日も近いんじゃな。ほっほ」
テスタロッサが帰ってからもずっと国王はこの調子だ。
あいつの本性を知ったらどういう顔をするんだろうな。
「話ってなんですか王子様? まさか誰かに秘密がバレたとか言いませんよね」
すごい迫力で念押ししてくるエルメス。
話しにくいからちょっと離れてくれないかなぁ。
「端的に言うとそのまさかなんだ」
「はあ? 偽物だってバレたんですか? しかもテスタロッサ様に?」
「そんなばかな。あの子が娘になることだけが今のわしの生きがいだと言っても過言ではないのにか」
「じゃあ結婚は破談になったってことですか?」
二人が身を乗り出してくる。
「いや、それがそういうわけでもないらしくて。今のところは俺が偽物だってこともばらさないでいてくれるみたいなんですよ」
「どういうことじゃ。わけがわからん」
俺も彼女の考えはわからない。
ただ大嫌いだったカズン王子が消えて喜んでいることだけはたしかだ。
そんなこと国王には口が裂けても言えないが。
「わしは部屋に戻るぞ、頭痛がしてきたわい。もう寝る」
国王が部屋を出ていった。
エルメスが俺を睨んでいる。
俺がドMだったらともかく、そんなナイフのような冷たい目で見ても何も出ないぞ。
エルメスはあごをくいっと動かした。
「バカ王子様。あなたも出てってください。私は所用があるので」
「はいはい、バカ王子は出ていきますよ」
俺は椅子から立ち上がってドアを開けようとした。
すると、向こう側からもドアを開けようとする力が働く。
「カズン王子様!?」
ドアの反対側にいたのは兵士長のカルチェだった。
「え、なんでカズン王子様がエルメス姉さんの部屋にいるんですか?」
エルメス姉さん? 姉さんだって?
エルメスが頭を抱える。
「タイミング悪いわ~」