「お久しぶりです国王陛下。ご機嫌麗しゅう。アーゲノン・テスタロッサただいま参りました」
華やかなドレスで着飾った美少女はテスタロッサと名乗った。
「おお、よく来てくれたテスタロッサちゃん。堅苦しい挨拶はそのへんにして。もっと近くでその可愛い顔を見せておくれ」
国王はテスタロッサを手招きするとテスタロッサの顔をさすって破顔した。
デレデレだな国王。
「カズンも久しぶりね」
テスタロッサがこっちを見て言った。
そうか、俺たちは久しぶりに会うのか。
「ああ、そうだな」
俺の返事にテスタロッサの目つきが一瞬だけだがグッと鋭くなった気がした。
「国王陛下いえ、お義父様。あたしカズンと二人きりで話がしたいんですけどいいですか?」
「おお、そうじゃな。積もる話もあるじゃろうて。好きにするとよい」
そう言った後、国王は小声で俺に耳打ちした。
「くれぐれもバレんようにな」
場所を移して俺の部屋――。
「で、あんた誰なの?」
バレたー。国王速攻でバレましたけど。
鋭い視線を俺に浴びせてくるテスタロッサ。
「な、何イッテルンダ。お、俺はカズンじゃないか」
「知らないみたいだから教えてあげるけどね、カズンはあたしには敬語で話すのよっ!」
びしっと俺を指差す。
マジかよ……。
そんなのエルメスも国王も一言も言ってなかったぞ。あいつら~。
「顔はかなりイケてるけど詰めが甘かったわね。で誰? 話さないなら騒ぐわよ」
「はぁ、実は……」
俺は仕方なく全てを話した。
俺の正体。
俺が異世界から来たこと。
本物のカズン王子は家出したこと。
「ふ~ん」
黙って俺の言葉に耳を傾けていたテスタロッサが口を開いた。
「もしかしたらカズンはあたしが嫌で逃げ出したのかもね。そうだとしたら今あんたがここにいることの責任の一パーセントくらいはあたしのせいかもしれないわね」
テスタロッサが遠くを見つめる。
「あたしカズンが大嫌いだったの。王子として生まれたからって何もしないで遊んでばかり……」
うーん、耳が痛い。
「メイドや兵士たちにはいっつも命令してて、そのくせ自分は危ないところへは飛び込む勇気もないクズ王子だったんだから」
「婚約解消は出来なかったのか?」
「出来ないわよ。うちの国は経済的にも軍事的にも弱小国家だもん」
王女にも悩みはあるんだな。
俺は自分の置かれていた境遇を思い出す。
たった一度就職に失敗したくらいでうじうじしていた俺はなんだったんだろう。
テスタロッサを見習うべきかも――。
「だからあたし誰も見てないところでカズンをガンガンいじめ抜いてやったわ」
前言撤回。
「その点あんたは骨がありそうね。とりあえず今はいじめないであげるわっ」
テスタロッサはそう言ってウインクをしてみせた。
その姿は怖いくらい魅力的だった。