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第6話

今日も今日とて朝から何もすることがなく筋トレをしているとミアが部屋にやってきた。


「失礼します。カズン様また筋トレですか? 精が出ますね」


ミアも初めて会ったときよりだいぶフランクになってくれている気がする。


「昼食はまた蒸し鶏のサラダでよろしいんですか?」


「ああ、そうしてくれると助かる」

この世界にはプロテインがないから朝昼晩と鶏肉料理を出してもらっている。


「わかりました」



ミアが部屋の掃除をしながら思いついたように振り返った。


「そういえばテスタロッサ様が今日おみえになるそうですよ」


……誰? 長ったらしい名前だ。

「テスタロッサって誰だっけ? ははっ」

「もう、冗談はやめてくださいよ。カズン様のフィアンセじゃないですか」


「!?」

……俺ってフィアンセがいたの?


「そんなこと言ってたらまたテスタロッサ様に怒られますよ」


「ごめん、ちょっと国王に用事があるの忘れてた。行ってくるっ」

「えっカズン様!?」

俺は困惑顔のミアを残して部屋を出た。


国王の部屋は城の最上階、謁見の間の奥にある。エルメスに聞いておいてよかった。

城の衛兵や大臣を横目に俺は国王の部屋に向かった。

勢いよく扉を開ける。


「国王! 俺にフィアンセがいるってどういうことですか!」

「うわっと!? びっくりしたなーもう」

国王が高級そうな椅子から飛び上がる。


「わしをびっくりさせるでない。もう年なんじゃから心の臓が止まってしまうぞ」


「びっくりはこっちのセリフですよ。聞いてませんよフィアンセなんて」


「エルメスに聞いておらんかったか、そうかそうか」

一人うなずく国王。


「そうかそうかじゃないんですよ。そういう大事なことは言っておいてくれないと」


「すまんの、この通りじゃ。テスタロッサちゃんは隣国の王女でお主より五つ年下じゃ。ものすごく可愛い子じゃから許してくれ」

頭を下げる国王。


「……まだ俺に黙っていることってありますか?」

「うーん、どうじゃろ。最近物忘れが多くてのう……」

力づくで思い出させてやろうか。


「おほん、お主が来てくれたおかげでわしはホッとしたんじゃ。そしたらめっきり老け込んでしまったわ」

国王が窓の方へと歩いていく。


「お主の評判も上々のようじゃし、感謝しとるよ」

「はあ、どうも」

なんか毒気を抜かれてしまったな。


「おや、もしやあれに見えるはテスタロッサちゃんを乗せた馬車かのう」

窓の外を見下ろしつぶやく国王。

もう来たのかテスタロッサとやらが。


「俺とそのテスタロッサって子は仲がいいんですか?」

「ああ、二人の仲は良好じゃよ。さあ出迎える準備をせんとな。お主も早うせい、王子よ」

二カッと白い歯をのぞかせる国王。


コミュ障のニートにはなんとも面倒くさそうな展開だ。


俺は自分の部屋へ戻るとミアに頼んで正装を用意してもらった。

素早くそれに着替えるとまた謁見の間へと向かう。

その途中、渡り廊下から城の門が開くところが見えた。

大きな馬車が入ってくる。


馬車の窓から一人の美少女が顔を出す。

あいつがテスタロッサか?

するとたまたま俺と目が合ったその美少女は笑顔で俺に向かって中指を突き立ててみせた。


なっ!? なんだあいつは。

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