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第5話

部屋に戻る途中、鎧をまとった兵士たちが廊下で立ち話をしていた。

三人は俺に気付くと廊下の端に寄り気を付けをした。

俺が「ご苦労様」と言うと三人ともあっけにとられた顔をする。


そういえば似たようなことが昨日もあったな。

廊下でメイドたちとすれ違う時もこんな感じだったっけ。


「あの、そんなにかしこまらなくていいから。もっとフランクに話しかけたりしてよ」


「いえ、王子様に話しかけるなど滅相もありません。立ち話をしていた罰はいかようにも受ける所存です」

三人の中で一番年上とおぼしき兵士が声を上げた。

カズン王子の奴、恐怖政治でも敷いてたのか?


「いや、立ち話くらいで罰なんてないから。もっと自然にしててよ……そう、これは王子としての命令だよ。城のみんなにも知らせといて」

「はっ、かしこまりました!」

わかったのかわかってないのか、仰々しい返事をする兵士。


これですこしでも城のみんなと打ち解けられればいいんだけど。今の話し相手はエルメスとミアしかいないからな。まぁ、それでももといた世界よりはましなんだけどさ。


部屋に戻ると天蓋付きのベッドに横になった。


「テレビもないし筋トレでもするか」


俺はせっせと腕立て伏せを始めた。

途中昼食をとるとまた筋トレを再開する。


「ふぅ………少し休憩っと」


いつもならここでプロテインを飲むところなんだけど。

そうだな。


俺は城の調理場に行ってみることにした。

途中出会ったメイドに調理場の場所を聞き、広い城内を歩き回りなんとか調理場にたどり着いた。


「お、王子様!? なぜこのようなところに、もしかして昼食に何か粗相でも……」


厨房にいたコックが驚き慌てふためく。


「あー、そんなんじゃないから大丈夫、大丈夫。それよりプロテインなんてないよ……ね?」

「ぷろていん? ですか?」

反応でわかった。この世界にプロテインはない。


「ごめん、やっぱいいや。仕事続けて」


呆然とするコックをよそに俺は調理場をあとにした。


部屋に戻ろうと渡り廊下を歩いているとなにやら外から威勢のいい声が聞こえてくる。

気になって中庭を見下ろしてみるとそこには沢山の兵士たちがいて訓練をしていた。


「ちょっと行ってみるか」



広い中庭に出ると、

兵士たちは先端に布を巻きつけた槍のようなもので模擬試合をしていた。


「王子様!?」

「カズン王子っ!?」


兵士の何人かが俺に気付いて声を上げた。

すると、


「カズン王子様、どうかされましたか? あ、すみません、私は兵士長のカルチェです」


さっきまで大きな声で兵士たちに檄を飛ばしていた兵士長のカルチェが近付いてきて仮面を脱いだ。

金色の短い髪形をした女性だった。


「いや、上から見てて面白そうだなと思って」

「は、恐縮です」

「俺も少しだけやらせてくれないかな?」

「え、模擬試合をですか?」

「うん、そう」

「は、では私がお相手しましょ――」


「待ってくれよ兵士長どの、おれにやらせてくれませんかね」


へらへらと笑みを浮かべながらスキンヘッドの大きな兵士がこっちに歩いてくる。


「無礼だぞ! 下がっていろ!」


「カズン王子だっていきなり兵士長とじゃあ荷が重いでしょ」


そう言って俺に視線を落とす。


「そうだな。じゃあきみとやろう」

「おれはパネーナっす。よろしくお願いしますよ。へへっ」

薄ら笑うパネーナ。


「パネーナ、手加減してやれよっ」

「王子様がんばってねー」

「ははっこりゃあ見物だぜっ」


笑い声交じりのヤジが飛ぶ。

どうやらカズン王子は兵士たちからあまり好かれていないようだな。


「カズン王子様っ、やはり私が――」

「いいからいいから」


カルチェが間に割って入ろうとするが俺が手で制する。

俺は模造槍を手に取った。


「いつでもいいよ」

「余裕ですね、カズン王子。ではいきますよっと!」


パネーナがいきなり鋭い突きを放ってくる。


だが俺の目には遅い。遅すぎる。


俺はそれを横にかわすとパネーナの胸めがけて突き返した。


「がはっ」


前に倒れこむパネーナ。気を失ったようだ。

一瞬の静寂が訪れた。


そして次の瞬間、


「そ、そこまでっ。カズン王子様の勝ちっ!」


カルチェが勝ち名乗りを上げた。

ざわつく兵士たち。


「おい、嘘だろ……」

「パネーナの奴、わざと負けたのか?」

「っていうか今の王子の動き見えたか?」


「じゃ、カルチェ邪魔したね」

「あ、は、はい。ご指導ありがとうございました」


俺はまだ狐に化かされたような顔をした兵士たちを残し自分の部屋へと戻った。

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