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第3話

「言ったじゃないですか。カズン王子は厄介な人だったと」

エルメスが腰に手を置いて面倒くさそうに言った。


ここはエルメスの部屋。

ミアに教えてもらってやって来たところだ。

「言葉足らずなんだよ。エルメスは」

「あのですね……」

エルメスは一度ドアを開け、人がいないことを確認してから閉めた。


「一応私の方が年上なんですからね。もっと敬意を払ってくれてもいいんですよ、カ・ズ・ン・お・お・じ」

エルメスは俺の顔の前に人差し指を突きつけ、見下ろすように言った。

宮廷魔術師にはおよそ必要ないと思われるスタイルを持つエルメス。パツパツの服装からしてまるでモデルのようだ。


「こら、王子に向かって指を差すな」


「あーら、言うようになったじゃないですか、元ニートで今もニートの童貞王子が」


「なっ!? なんでそんなことを――」


「知ってるかですって? 召喚する者の下調べくらいしますよ」


エルメスの方こそ敬語を使ってはいるものの全く敬意を払っていない。


「そういうエルメスはどうなんだよ」


「わ、私のことは関係ないでしょうが、このエロ王子っ。ふ、ふん、でも童貞は今日にでも卒業できますよ、今日は二日に一回の夜伽の日ですからねっ」


「夜伽だって!?」


「そうですよ。どうぞ楽しんできてくださいね、童貞王子」


そう言うとエルメスは俺を部屋から追い出した。

おいおいマジかよ、異世界。


俺は夜まで何も手に付かずただただもんもんとしていた。


トントン


部屋の時計を見る。針は六時を指していた。


「失礼します」


ミアだ。


「ああ、どうぞ」

「お夕食は何がいいですか?」

「なんでもいいよ。昨日と同じでもいいよ美味しかったから」

「本当ですか? ありがとうございますっ」

ミアの敬語が幾分かやわらいだ気がする。


「ありがとうございますって、俺の料理はミアが作ってるの?」

「はい。わたしはカズン様の専属メイドですので」


やっぱりそうだったのか。


「ミアって年いくつ?」

「二十一です」

「ふーん、もっと幼く見えるね」

「そ、そうですか……あ、あの今晩はその……」

ミアが言いよどむ。


「よ、夜伽ですので、いつも通り精のつくものがいいです……よね」

いつも通りって……本物のカズン王子はうらやましい奴だなまったく。

あれ? 夜伽ってもしかしてミアが俺の相手をするのか?


「ミアが俺の夜伽の相手――」

「お、お許しください。わ、わたしはまだそういう経験ありませんからっ」


顔を赤らめるミア。なぜだかつられて俺も赤くなる。


「ゆ、夕食は普通のでいいよ、夜伽とか関係なく」

「わ、わかりました。では失礼します」


ミアが部屋をあとにする。


「はぁ、暑い」



そして夕食が済み、時刻は午後十一時。


コンコン


部屋をノックする音がミアのそれより大きい。


「入りま~す」

「王子様~」

俺の返事を待たずに部屋に入ってきたのは今まで見たことないくらい胸の大きな美女二人だった。

ただでさえ露出の多い服を脱ぎながら俺のベッドに這い上がってくる美女二人。


俺は何をしていいかわからずただあわあわしていた。


「今日の王子様なんか可愛い~」

「なんかいじめたくなっちゃう~」


う~~~~~。やっぱ無理だ!


「ごめん。今日はなしでっ」

「え~どういうこと~」

「わかった。そういうプレイですね~」

なおも近付いてくる。


「いや、違うからちょっと離れて、服着てっ。今日は本当に終わりっ!」


ぶつぶつ文句を言いながら部屋を出ていく美女二人。俺の本気の叫びが届いてなによりだ。

こうして俺の貞操は守られた。

これでよかったのかと自問するもう一人の俺がいるが、これでいつも通りの平穏な夜が送れる。


「国王に言って当分の間、夜伽はなくしてもらおう」

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