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第2話

王子に成り代わる? 何を言っているんだこのおじさんは……。

「国王様を前にして頭が高いですよ、一般人。分をわきまえなさい」

「まあよい、エルメス。この者もいきなり召喚されて戸惑っておるのだろう。経緯はおいおい説明すればよい。とりあえず今は誰にも見られんようにカズンの部屋に移動するとしよう」

「はい、承知しました」


俺はエルメスと呼ばれていた美女に腕を掴まれ風呂から引き上げられた。


「わっちょっと、待って待って!」

「きゃあっ!!」


魔法使い然とした美女が俺の手を放す。


「あなたなんで裸なんですかっ!?」

「風呂入ってたんだから仕方ないでしょうがっ」


俺は手で大事な部分を隠しながらお湯の中に飛び込んだ。


「お主なかなかよい体をしておるな……おほん、まあよい、まずはこれを羽織るがよい。話はそれからじゃ」   


国王様と呼ばれていたおじさんがマントを差し出してくる。

俺はそれを奪い取るようにして羽織った。





場所は変わってここはカズン王子の部屋。


「……というわけです。わかりましたか?」


宮廷魔導士だというエルメスさんから大体の話は聞けた。


「つまりここは俺がいた世界とは別の世界で、エルメスさんが俺を呼び寄せたと」

「はい」

「しかもその理由は家出した王子に俺が瓜二つだから替え玉として使うためだと」

「その通りです」


「このことを知っておるのはわしとエルメス、そしてお主だけじゃ」

ずっと黙って聞いていた国王が口を開いた。


「王子ってあなたの息子ですよね?」

「こら、国王様に向かってあなたって――」

「よい、エルメス。そうなんじゃ。手の焼ける奴で困ったもんじゃ。じゃがのう、あんなのでもいなくなったとなれば国が揺らぎかねんからの」


俺はカズン王子の服に着替えながら話を聞いていた。


「ではこれからはあなたのことをカズン王子と呼びます。私のことはエルメスと呼び捨てで呼んでください。カズン王子はそう呼んでましたから」

「わしもお主のことをカズンと呼ぶ。お主は国王と呼ぶがよい」


「ちょっと、勝手に話が進んでるけど俺に拒否権はないんですか?」

「ないです」

エルメスがきっぱりと言い切る。


「マジ……ですか?」

俺は国王にすがる思いで目線を送った。


「すまんのう、拒否権はないのじゃ」

国王は残念そうに首を横に振った。


「はぁ……うそだろ」


国王とエルメスが部屋を出ていく。

そこでエルメスが振り返り、

「そうそう言い忘れてましたが、カズン王子はちょっと厄介な方でしたのでくれぐれもバレないようにしてくださいね」

そう言い残していった。


俺は一人広い部屋に取り残された。


「どうしろって言うんだよ、これから」


いきなり異世界でそれも王子だなんて。

ついさっきまでニートだったんだぞ。っていうか王子に仕事ってあるのかな?

エルメスさんに、いやエルメスに訊いてこようかな。

するとその時、


トントン


「失礼いたします。カズン様。入ってもよろしいでしょうか?」

ドアをノックする音と女性の声が聞こえた。


「え、え~と……どうぞ」


お辞儀をして女性が入ってきた。

メイド服のようなものを着ている。


「カズン様、今日のお夕食は何がよろしいですか?」

「夕食?」

晩ごはんなら二時間以上前に家で食べたんだけど。

そういえば今何時なんだろう?

よくよく見回すとこの部屋には時計がない。


「ごめん、今何時かな?」

「えっ? あ、はい、えーと午後六時です」

もといた世界と時差が四時間くらいあるのかな。


「カズン様?」

「ああ、夕食ね。うん、なんでもいいよ」

「えっ? なんでもですか? かしこまりました」


女性が一礼をして部屋を出ていこうとする。


「あっそうだ。王子の仕事って何かな?」

「お仕事ですか? カズン様の? 別に何もされなくてもよろしいかと……」


怪訝な表情で答える女性。


「……あの、大変失礼ですが、お体の具合でも悪いのですか? もしかしてご病気とか……」


あれ、俺の態度不自然だったかな。

だったら不自然ついでにもう一つどうしても気になることを。

「あのさ、これから変なこと訊くけど気にしないでね……きみの名前なんだったっけ?」



「ミアか。不思議そうな顔してたな」

俺付きのメイドなのかな。後でエルメスに訊いておこう。

ついでにこの城にいる人間の名前も教えてもらっとかないとな。

エルメスもしっかりしてるようで抜けてるな。こういう情報を全然教えといてくれないんだからな。


「夕食か、あんま腹減ってないんだよな~」

とりあえず夕食が運ばれてくるまで筋トレでもしてるか。


部屋に時計がないのでわからないがおそらく小一時間ほど経った頃だろうか、ミアが夕食を運んできてくれた。


「失礼いたします。こちらお夕食になります。お料理のご説明をいたしましょうか?」

「いや、いいよ。ところでさぁ、あとで時計持ってきてもらえるかな? やっぱりないと不便で」

「と、時計ですか? し、承知しました」

ミアが頭を下げる。


「あ、あとさ、ミア。そんなかしこまらなくてもいいから。こっちが緊張しちゃうから」

「っ!? は、はい。カズン様のご命令ならば。し、失礼いたしますっ」

ミアの顔が紅潮していたように見えたのは気のせいだろうか。

もしかして馴れ馴れしすぎたかな。


翌日。

昨晩のミアの反応の理由がエルメスの一言でわかった。


「カズン王子は城の者の名前などいちいち憶えてなどいませんよ」


とのことだ。

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