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第36話

 塔を脱出した俺たちは特に行く当てもなかったため海岸沿いを歩き町を探すことにした。

 その途中、海辺から現れたウミボウズという魔物との戦闘になる。

 さっき見た石像のことを考えていて心ここにあらずといった感じのローレライさんと、魔法を使い精神力を消耗しているゲルニカに代わって俺が一人でウミボウズの相手をした。

 ウミボウズは全身が青色で体長一メートルほどの頭でっかちな魔物だった。

 だがその醜い見た目に反してウミボウズはクレバーな戦い方を仕掛けてくる。

 遠距離から水を高圧で吐き出して俺を攻撃してくるウミボウズ。

 だが俺が近付いていくとウミボウズは海に潜って隠れてしまう。

 海という地形を最大限利用しながらヒットアンドアウェイ戦法をとってくるウミボウズに対して、俺はなすすべがない。

 いっそ海の中まで追いかけていってやろうかと思うも、あんな魔物相手にびしょ濡れになりたくなどない。

 だったら相手にしなければいいだけなのだが、ウミボウズは意外と素早い動きでついてくる。

 ねちねちと遠くから攻撃をしてくるウミボウズを相手に俺が手をこまねいていると、それを見ていたゲルニカがさすがに嫌気が差したようで、

「もうっ、あたしがやるわよっ。サンダーっ!」

 ウミボウズに向かって人差し指を突き出した。

 直後、落雷がウミボウズの大きな頭に直撃する。

『ブブブブ……!』

 海に沈んでいくウミボウズ。

「まったく……クロクロ、あんた力は強いけど当たらなきゃ意味ないのよっ」

「あ、ああ、そうだな」

「あんたってブースト以外に魔法使えないわけ?」

「ああ、知り合いの騎士団長さんに言われて一通り試してみたんだけどな。駄目だった」

「じゃあもし敵が物理攻撃が一切効かないような魔物だったらどうすんのよっ、まさかあたしがそいつら全部相手にしなきゃいけないんじゃないでしょうねっ」

 ゲルニカが険しい顔で迫ってくる。

 とここで意識がどこかに飛んでいたローレライさんが我に返った。

 ゲルニカの言葉を聞いて、

「す、すみません。私も魔法は一つしか使えなくて……」

 所在なさげな顔をする。

 すると、

「ローレライはいいのよ」

 とゲルニカ。

「あなたはフォースが使えるんだから、その気になれば実体を持たない魔物相手にも通用する武器が作れるでしょ。でも問題はクロクロ、あんたよあんたっ」

 ゲルニカが俺に向き直った。

 鋭い眼差しで俺を見上げる。

「実体を持たない魔物相手にどうやって戦うのよっ」

「う~ん……っていうかそんな魔物いるのか?」

 俺はそんなゲルニカが言うような魔物には遭遇したことがないからよくわからないのだが。

「いるわよっ。例えば海の近くだったらウォータードラゴンとかね」

 ゲルニカがそう言ったまさにその瞬間だった。

『ギャアアァァオッ!』

 全身が水で出来たドラゴンが海から姿を現したのだった。


「ウォータードラゴンだわっ」

「ウォータードラゴンですっ」

 ゲルニカとローレライさんの声が重なる。

 海から現れ出たのは体長三メートルほどのドラゴンだった。

 全身が水で出来ていて波打っている。

「あいつは物理攻撃は一切効かないわよっ」

「じゃあどうするんだよっ」

「あたしとローレライでやるしかないでしょっ。あんたは黙って見てなさいっ」

 言うとゲルニカはウォータードラゴンに少し駆け寄ってから人差し指を突き出した。

「サンダーっ!」

 唱えた瞬間雷鳴がとどろき稲妻がウォータードラゴンを襲った。

『ギャアアァァオッ……!』

 だがこれまでの魔物とは違い一撃では倒れずこちらに向かってくる。

「フォースっ!」

 すると今度はローレライさんが足元にあった小さな草を手に取り口にした。

 その途端ローレライさんが持っていた草が光り輝き銃弾のように変化する。

 ローレライさんは手のひらの上に乗せたそれをもう片方の手の中指で思いきりはじいた。

 直後、はじかれた銃弾のような物体がウォータードラゴンめがけて飛んでいく。

 ドォン!!

 それがウォータードラゴンに命中し爆発が起こった。

 ウォータードラゴンはその爆発によって息絶えたようで海へと沈んでいく。

「た、倒したんですか?」

「はい。倒せたと思います」

 ローレライさんが振り返って言う。

「すごいですね……ローレライさんのフォースっていう魔法、剣を作り出すだけじゃなかったんですね」

「ええ、まあ。頭に思い描いた武器ならある程度は自由に作り出せます。もちろんもとになる植物によって威力は異なりますけれど」

「へー、そうなんですね」

「ほら、だから言ったでしょ、ローレライなら問題ないって。問題なのはクロクロ、あんたなのっ」

 ゲルニカが寄ってきて俺の胸をつんつん指で突き刺しながら言った。

「さっきみたいな物理攻撃が効かない魔物が出た時あんたは役立たずなのよ」

「うっ……それはまあ、そうだが」

 わかってはいたがはっきりと言う奴だな。

 本当のことなので反論できないでいると、

「だからあんたにはある魔法を覚えてもらうわっ」

 ゲルニカが突然言い出す。

「いやいや、俺はブースト以外の魔法は使えなかったんだってば」

「それは教えた奴が下手くそだったのよっ」

 と言い放つゲルニカ。

 俺の頭の中でドラチェフさんの顔が思い浮かぶ。

「あたしが教えればいくら魔法のセンスがないあんたでももう一つくらいは魔法を使えるようになるわっ」

「本当かっ?」

「ええ。ブーストが使えるってことはあんた魔力はそれなりに高いはずだからやれば出来るはずよ」

「おおっ。じゃあ頼む、教えてくれっ」

「まあいいわ、教えてやるわよ。面倒くさいけどこれからのことを考えたら教えといた方があたしも楽できそうだしね」

 本当に面倒くさそうな顔をしつつゲルニカは俺に視線をくれた。

 と、

「あ、あの、それなら私にも回復魔法を教えてもらえないでしょうかっ」

 俺とゲルニカの話を黙って聞いていたローレライさんが口を開く。

「私、エルフなのに回復魔法が使えなくて……もし回復魔法が使えたら今よりもっとお二人のお役に立てると思うのです。だからっ」

「ローレライさん……」

「ローレライ……もう~、わかったわ。いいわよ、ついでだから二人とも面倒見てやろうじゃないのっ」

 半ばヤケになりながらもゲルニカは首を縦に振った。


 俺たちは海岸沿いから離れて平地に移動した。

 そこでゲルニカが、

「じゃあこれから二人に魔法を教えるわよっ」

 俺とローレライさんの顔を見ながら話す。

「ローレライにはヒールを教えるわ。その上のハイヒールとかエクスヒールはヒールが使えないとどのみち使えないしねっ。それから……」

 今度は俺に向き直り、

「クロクロにはアイスエイジを覚えてもらうわっ」

 とゲルニカ。

「アイスエイジ? ってどんな魔法なんだ?」

「アイスエイジっていうのは相手を一瞬で凍らせる魔法よ。これが使えれば物理攻撃が一切効かない魔物でも凍らせちゃってから殴れば簡単に倒せるようになるでしょっ」

「あー、なるほどな」

「ってことで二人とも、早速服を脱いでちょうだいっ」

 ゲルニカは俺たちに言い放った。

「は?」

「え?」

 俺とローレライさんは声を漏らす。

 その時の俺はきっと間の抜けた顔をしていたことだろう。

「ほら早くっ」

「え、あ、あの、服を脱ぐとはどういうことなのでしょうか?」

「言葉通りの意味よ、ほらさっさと脱いでよ二人ともっ」

「いや、なんで俺たちが服を脱がなくちゃいけないんだよ。これから魔法の特訓をするんだろ」

「そうよ」

 何を当然のことをという顔で俺を見てくるゲルニカ。

 自分がおかしな発言をしているという自覚はないようだ。

「だからなんで服を脱ぐのか説明してくれ」

「あのねえ、魔法っていうのは自然と一体になることが重要なのよ。だからより自然に触れ合うためには少しでも薄着になった方がいいのっ。わかるっ?」

 ゲルニカはそれらしいことを言うが正直言ってよくわからない。

「本当は全裸になるのが一番いいんだけどそれはさすがに嫌でしょ?」

「当たり前だ」

「だからとりあえず上半身だけ服脱いで」

「そう言われてもなぁ……」

 俺はともかくローレライさんが困るだろう。

 そう思いローレライさんの方を振り向くと、

「!?」

 ローレライさんは着ていた装束を脱いで上半身の肌をあらわにさせていた。

 下着だけしか身につけていない。

「ちょっ、ローレライさんっ!? 何やってるんですかっ?」

「こ、これも回復魔法を覚えるためです。恥ずかしいですけれど頑張ります」

 ローレライさんは顔を真っ赤にして答える。

 ……というか着痩せするタイプだったんだな、ローレライさん。

「ほら、クロクロもローレライのことじろじろ見てないでさっさとしなさいっ」

「べ、べ、別にじろじろは見てないだろ、変なこと言うなっ」

 俺は言いながらローレライさんから目をそらすと上着を脱ぎ上半身裸になった。

「脱いだぞっ、これでいいのかっ?」

「まあいいわ。じゃあ始めましょっ」

 こうしてゲルニカにより半裸状態にさせられた俺とローレライさんの魔法の特訓が始まるのだった。

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