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第35話

 ブルームレオンたちを倒し、古めかしいさびれた塔の三階に上がった俺たちの前には、黒い巨体のベヒーモスとヒールを使いこなすヒールスライムという魔物たちが待ち構えていた。

 ベヒーモスは一体だけだがヒールスライムは数十体いる。

「ベヒーモスに電撃魔法は効かないからベヒーモスはクロクロが倒してちょうだいっ」

 ゲルニカが言うので俺がベヒーモスを、ローレライさんとゲルニカがヒールスライムたちを相手することになった。

 ベヒーモスはその巨体に似合わず素早い動きで駆け出した。

 一直線に俺たちの方に向かってくる。

「任せたわよっ」

「クロクロさんお願いしますっ」

 ゲルニカとローレライさんが俺のそばから離れ、ヒールスライムたちのもとへと走り出した。

 一人残された俺はベヒーモスの突進を体で受け止める。

『グオオオォォォーッ!』

「うぐぐぐっ……」

 ベヒーモスのパワーは半端ではなかった。

 全力を出している俺が圧され始める。

 その間ゲルニカとローレライさんはヒールスライムたちを一体ずつ確実に仕留めていっていた。

 ヒールスライムたちは戦う気がないのか部屋の中を逃げ回っている。

 そいつらを追いかけながら倒していく二人。

『グオオオォォォーッ!』

「うぐぐぐっ……」

 俺は壁に追い込まれつつあった。

 どうやらブーストなしでは厳しい相手のようだ。

 ……仕方ない。

「ブ、ブースト、レベル2っ」

 魔法を唱え身体能力を二倍に高めた俺はベヒーモスを押し返す。

『グオオオォォォー……!?』

「うおおぉぉー……この、いつまでも覆いかぶさってんなっ!」

 俺はベヒーモスの鼻っ柱にパンチをお見舞いした。

 その途端ベヒーモスが悲鳴を上げよろめく。

 チャンス!

 その好機を逃さず俺は追撃を与えようと前に出るが、その瞬間、周りにいたヒールスライムたちが一斉にベヒーモスにヒールを施した。

 ベヒーモスは一瞬で回復し追撃をくらわそうとしていた俺を反対に鋭い牙で突き飛ばしてきた。

「ぐあっ……!」

 俺はなんとか牙の直撃は手でいなして防いだものの後方の壁に激突する。

「クロクロさんっ!」

「クロクロっ!」

 ローレライさんとゲルニカが心配そうに振り返った。

「だ、大丈夫です……でもヒールスライムが」

「す、すみません。ヒールスライムたちが逃げ回っているので倒すのに時間がかかってしまって……」

「こいつらベヒーモスを回復させるためだけにいるみたいだわ、まったくっ」

 ブーストのレベルを上げればベヒーモスを回復させる間を与えることなく一撃で倒すことも可能なのだろうが、出来るだけ使いたくはない。

 寿命が縮まることももちろん嫌だが、さっき聞いた精神力の消耗でダウンしてしまうことも避けたい。

 俺はベヒーモスに向き直ると駆け出した。

 ベヒーモスの攻撃をかいくぐり両目にそれぞれパンチを打ち込んで両目を潰す。

『グガアアァァァーッ……!』

 俺のその攻撃により急に暴れ出すベヒーモス。

 辺り構わず首を振り回し周りにいたヒールスライムたちをふっ飛ばしていく。

 ヒールスライムたちはそれを見て自分の身可愛さにベヒーモスの回復を後回しにして逃げまどう。

 俺は暴れ回っているベヒーモスの頭上に跳び乗ると、脳天めがけ思いきり拳を振り下ろした。

「うおりゃあぁっ!」

『グガアアァァーッ……!』

 俺の拳はベヒーモスの硬い皮膚を貫き急所を捉えたようだった。

 ベヒーモスが断末魔の叫び声を上げると床に横になって倒れ込んだ。

 そのものすごい衝撃でヒールスライムたちがびくっと床から跳び上がる。

「よし、あとはヒールスライムたちだけだな」

「ベヒーモスがいなけりゃただの雑魚よ、こんな奴ら」

「覚悟してください」

『ピ、ピキーッ……!?』

『ピ、ピキーッ……!?』

『ピ、ピキーッ……!?』

『ピ、ピキーッ……!?』

 俺たちに追い詰められて、もとから青白い色をしたヒールスライムたちはさらに顔面を蒼白にさせるのだった。


 ヒールスライムたちを蹴散らして塔の四階へと上がると狭い空間に出た。

 とそこには美しい女性の石像が立っていた。

 どことなくローレライさんに似ている気がしないでもない。

「あれ? もう最上階っ?」

 とゲルニカ。

 外から見た限りではもっと高いと思っていた塔だったが全四階だったらしい。

「この階には魔物はいないようですね。ブルームレオンもいないみたいですし」

「そうですね」

 ローレライさんの言葉に俺が同意する。

「それにしても何かしら、この石像?」

 ゲルニカが言いながら石像に近付いていく。

 すると、

「えっ? ちょっと待ってくださいっ」

 ローレライさんがふいに声を上げた。

「この石像、レジーナさんそっくりですっ」

 ローレライさんが石像に駆けていきよく観察しながら言う。

「え、どういうことですか?」

「この石像の顔、レジーナさんそのものなのですっ」

「誰よ? レジーナって」

 ゲルニカは訳が分からないといった顔を俺に向けた。

「ん? あー、そっか。ゲルニカはエルフの里には行ってなかったんだな」

「レジーナさんというのは私たちエルフが暮らす里の長であるバーバレラ様の娘さんのことです。ずっと昔に人間によってさらわれてしまったのです」

「ふーん、そうなんだ。それでそのレジーナってエルフそっくりなの? この石像」

「はい。何から何までそっくりです。着ている装束もエルフ族のもののようですし」

 ローレライさんは興奮した様子で話す。

「まるで生きているように見えます」

 ローレライさんの言う通り、たしかに目の前の石像はともすれば今すぐにでも動き出しそうなリアルな躍動感があった。

「まあでも、所詮石像だしね~……それよりもこの塔にはもう魔物はいないみたいだしそろそろここ出ましょ」

「ん、うん、そうだな。ローレライさん行きましょうか」

「は、はい……」

 ローレライさんは石像にまだ未練があったように見えたが、いつまでもここにいても仕方がないので俺はローレライさんに声をかけその場をあとにするのだった。

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