海岸沿いをしばらく歩いていると古めかしい大きな塔が見えてきた。
壁にはコケが生えていて周りの草木も背が高くうっそうと生い茂っている。
長いこと手入れされていないように見えた。
「へー、大きいな~」
「ここに魔物が沢山棲みついているのですね」
「村の人の話だとそうみたいよ」
俺とローレライさんとゲルニカは塔を見上げながら口にする。
「早く入ってみましょ」
「ああ、そうだな」
「はい」
壊れかけている扉を通り抜けて俺たちはその塔の中へと入っていった。
すると早速、俺たちを待ち構えていたかのように魔物が群れをなして寄ってきた。
『ウウウ……』
『ウウウ……』
『ウウウ……』
『ウウウ……』
包帯をぐるぐる巻きにした人型の魔物だった。
「おりゃっ」
俺は近付いてくるその魔物の胸を思いきり殴りつける。
魔物はボウリングのピンのごとく数体の魔物を倒しながら吹っ飛んだ。
だがそいつらはすぐにむくっと起き上がると何事もなかったかのように『ウウウ……』とまたこっちに向かってくる。
「クロクロ、こいつらはミイラ怪人よっ。頭部を破壊するか首を落とすかしないと倒せないわっ」
ゲルニカが声を飛ばした。
そんなこと初耳だ。
「フォースっ」
その時ローレライさんが魔法を唱えると塔の外で手に入れていた長い草を長剣へと変形させる。
そしてそのまま駆け出すと俺の前まで迫ってきていたミイラ怪人の首を長剣を振り抜きはね飛ばした。
「サンダーっ!」
ゲルニカも負けじと魔法を発動させる。
ミイラ怪人の頭上に一筋の雷が落ち一瞬で頭部を丸焦げにした。
うつ伏せに倒れるミイラ怪人。
『ウウウ……』
『ウウウ……』
『ウウウ……』
『ウウウ……』
だがミイラ怪人は部屋の奥からわらわらと湧いて出てくる。
「どんだけいるのよっ……っていうかクロクロ、あんたも戦いなさいよっ」
「お、おう、悪い」
二人の戦いぶりに目を奪われていた俺もゲルニカの一言で我に返るとミイラ怪人に向かっていった。
「このっ」
ミイラ怪人の顔面にパンチを浴びせ頭部ごと破壊する。
「おらっ」
続けてハイキックを繰り出しミイラ怪人の首を飛ばした。
俺に触発されたかのようにゲルニカもローレライさんも再びミイラ怪人に攻撃を仕掛けていく。
「えいっ!」
「サンダーっ!」
『ウウウッ……!』
『ウウウッ……!』
この後も俺たちはミイラ怪人を相手に終始優勢に立ち回った。
そして五分ほどかかってやっと、
「これで終わりだっ!」
最後の一体を屠ったのだった。
「はぁー、疲れたぁ……」
「ええ……でも、なんとか倒しきりましたね……」
「まったく、一階からこんないっぱい魔物が出てくるなんて、さすがに聞いてなかったわよっ……もうっ」
息を切らす俺たち。
「ゲルニカは魔法で倒してたんだから疲れてないだろ」
「はぁ? あんた馬鹿なの? 魔法は精神力を使うんだから疲れるに決まってるでしょっ」
「精神力? マジックポイントとかじゃなくて?」
「マジックポイント? 何それ? 何言ってんのあんた」
ゲルニカは顔をしかめ訊き返してくる。
俺、おかしなこと言ったかな……?
ゲームとかアニメとかでは魔法はマジックポイントを消費して使うものだがこの世界では違うのか?
「クロクロさん、私もマジックポイントというものはよくわかりません」
ローレライさんは戸惑った顔を俺に向けた。
「クロクロさんは記憶をなくしているので忘れてしまっているのでしょうけれど、魔法を使うには精神力を必要とするのですよ」
「はぁ……」
「精神力は体力以上に消耗が激しいと言われています」
「そうなんですか」
「そういうことっ」
とゲルニカが声を大にする。
「あんただってブースト使った時ぶっ倒れちゃったじゃないのっ」
「まあ、そういやそうだけど……」
あの時は大怪我を負っていたというせいもあると思うが。
「だからあたしはすごく疲れてるの、わかったっ?」
「ああ、わかったよ。疲れてないだろとか言って悪かった」
「わかればいいのよ、わかればっ」
と納得した様子のゲルニカ。
ゲルニカは俺の目からはたいして疲れているようには見えないのだが、そんなことを言うとまた言い返されるだけなのでここは黙っておこう。
ミイラ怪人の群れを倒した俺たちは螺旋階段を使い塔の二階に上がっていく。
階段を上っている時に魔物が出てきたら厄介だな、と思っていたがそれは杞憂に終わった。
塔の二階にたどり着くとそこは広い空間だった。
一階とほぼ同じくらいの広さがある。
だが魔物の姿は一体も見えない。
「この階は魔物がいないみたいだなぁ……」
「ええ、そうですね」
俺のつぶやきにローレライさんが相槌を打つ。
「馬鹿ね、あれを見なさいよっ」
と突然ゲルニカが口を開いた。
見るとゲルニカは前方を指差している。
「ん? なんだ?」
だがゲルニカの指差す先には特に何もない。
「ゲルニカさん、どうしたのですか?」
ローレライさんも俺と同じ反応を見せた。
「はぁ? 二人ともどこ見てんの、あいつよあいつっ!」
「だからなんのことだよ」
「すみませんゲルニカさん、私にもよくわからないのですが……」
「ああもうっ」
ゲルニカは地団太を踏むと次の瞬間「サンダーっ!」と叫ぶ。
すると何もいないはずの場所に雷が落ちて『ボアアァァッ……!』と悲鳴が上がった。
俺とローレライさんが怪訝な顔を浮かべていると、何も見えなかった場所から大型のカメレオンのような魔物が姿を現した。
「うおっ、なんだあいつっ?」
「えっ!?」
「あの魔物はブルームレオンよっ」
驚く俺たちをよそにゲルニカは続ける。
「ブルームレオンは周りの風景に溶け込んで消えたように見せることが出来る魔物なのよ、あんたたちには見えなかったみたいだけどあたしには背景と本体とのつなぎ目がちゃんと見えてたわっ」
「す、すごいです……そんな魔物がいたなんて私初めて知りました」
「よく気付いたな、お前」
「ふんっ、あたしにかかれば当然よっ」
と鼻を鳴らすゲルニカ。
伊達に魔物研究はしてないってわけか。
「っていうかブルームレオンはまだいるわよ、二人とも気抜かないでよねっ」
「……あ、本当ですっ。私にも見えましたっ」
俺の隣にいたローレライさんが声を上げた。
「あそことあそことそれから向こうにもいますっ」
それを受けて俺も目を凝らしてみる。
と、
「おっ、俺にも見えたぞっ。そこにももう一体いるっ」
二階にはブルームレオンがまだ四体も隠れていた。
「やっと見えたのね。あたしちょっと疲れたからあとは二人でやってちょうだいっ」
「は、はい、わかりました」
「ああ、わかったよ」
ゲルニカがいなければブルームレオンたちに気付けずに不意を突かれていたかもしれない。
そう考えれば残る四体は俺とローレライさんで相手してやる。
そう思い、
「行くぞっ」
「フォースっ」
俺とローレライさんは保護色で背景と同化しているブルームレオンたちを倒すため駆け出したのだった。