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第29話

「じゃあ手始めにこの辺りに現れる強い魔物の情報を探るとしましょうか」

「はい、わかりました」

 大邪神に一歩でも近付くため俺たちは強い魔物の情報を集めることにした。

 そこでまずはクラスコの城下町のギルドにおもむく。

「もう薄暗いのに人が沢山いるんですね」

 隣を歩くローレライさんが町を見渡しながら言った。

 ローレライさんの言う通り町は沢山の人であふれていた。

「そうですね。ロレンスの町よりもここはもっと大きくて人も多いみたいですからね」

「そうなのですか。私はつい最近までエルフの里を出たことがなかったのでびっくりです」

「あの、くれぐれもエルフだってことはバレないように注意してくださいね」

「はい、もちろんです」

 そう返すローレライさんは人間離れした美貌の持ち主なので本当に大丈夫なのかなぁと心配になる俺だった。

 ギルドに着くとまず切り取っていたホブゴブリンの耳をすべてカウンターの女性に渡した。

 それにより金貨一枚をゲットする。

 それから掲示板に貼られていたSランク冒険者向けの依頼書を探す。

 俺はEランクなのでそれらの依頼を受けることは出来ないが強い魔物の情報は手に入れることが出来る。

 だがEランク向けの依頼書が少ないのと同様にSランク向けの依頼書もまた少ないらしく一つも見当たらなかった。

「どうしましょう、クロクロさん」

「う~ん、そうですね~……」

 俺が悩んでいると、

「そうだ。酒場に行ってみませんか?」

 ローレライさんが口にした。

「酒場ですか?」

「はい。バーバレラ様がおっしゃっていたんです。酒場は情報の宝庫だって」

「へー、そうですか」

 バーバレラさんがねぇ……正直あまりピンとこないが他に行くところもないしここはバーバレラさんの話に乗ってみるか。

「じゃあ酒場に行ってみましょうか」

「はい」

 こうして俺とローレライさんは有益な情報を掴むため酒場へと足を向けるのだった。


 クラスコの城下町は広いため、俺たちが酒場に着いた頃にはもうすっかり夜になっていた。

 酒場の扉を開けるとにぎやかな話し声やビールジョッキの鳴り響く音が耳に入ってくる。

 俺とローレライさんは中に入りそんな中を歩いてカウンターに向かう。

 すると周りにいた客たちが一斉にローレライさんに視線を向けてきた。

 いくら酔っ払っていても美人には自然と目がいくらしい。

 俺はカウンターの奥にいた酒場のマスターに声をかける。

「すいません、この辺りで強い魔物の出現情報とか知りませんか?」

「あ? そんなことよりまずは注文してくれっ。話はそれからだよっ」

 威勢のいいマスターに返される。

 たしかに言われてみればその通りだ。

「じゃあビールください。グラスで」

「はいよっ。そっちの女性はなんにするっ?」

「私はお水で結構です」

「水っ? 駄目駄目、何か注文してくれよっ」

「ですが……」

「あー、じゃあこの女性にはミルクをお願いします」

「牛乳だね、はいよっ」

 マスターは手慣れた様子でビールとミルクをグラスに注ぐとすぐにそれらを俺たちの前に置いた。

「二つで銀貨二枚だよっ」

 俺は持っていた金貨を一枚差し出してお釣りの銀貨八枚を受け取る。

「すみません、私お金を持っていないのですが……」

「わかってるよ。俺のおごりだから気にしないで」

「は、はい。クロクロさん、ありがとうございます」

 俺が銀貨を袋に閉まっていると、

「それで話はなんだったかなっ?」

 マスターが顔を寄せてきた。

「強い魔物の出現情報を知りたいんですけど」

「強い魔物かぁ……悪い、知らないやっ、ごめんよっ」

「え、そんなっ……」

 マスターは軽く手を上げると俺の前からいなくなり他の客の注文を取り始めてしまう。

「まいったな、知らないって」

「はい、そのようですね」

「まあ、とりあえず飲みますか。注文しちゃいましたから」

「は、はい」

 俺とローレライさんはがやがやと騒がしい店内で、顔を近付け会話をしてから二人ともグラスに口をつけた。

「あ、ガジュの実食べますか?」

 ミルクを一口飲んだローレライさんが唐突に言う。

 見るとローレライさんは手の中にガジュの実を二つ握り締めていた。

「ローレライさん、まだ持ってたんですね。それ」

「エルフの里を出る時にバーバレラ様から二つだけ貰ってきたのです。よかったらどうぞ」

「あー、じゃあいただきます」

 店内に食事を持ち込んでいいのかという疑問はわいたが、こんな小さな木の実くらいなら見逃してくれるだろうとそれを口に運ぶ。

 とその時、

「ああ、そうだそうだっ!」

 マスターが急にこっちを振り向き近寄ってきた。

 俺は驚いて思わずガジュの実を丸ごとごくんと飲み込む。

「な、なんですか?」

「おれは強い魔物は知らないけどさ、そういうのを知ってそうな奴なら心当たりがあるよっ」

 とマスター。

「え、本当ですか?」

「ああ。ゲルニカって奴なんだけどさ、魔物のことを研究してるらしいから話を聞いてみるといいよっ」

「ゲルニカさんですか。その人はどこにいるんですか?」

「西の町はずれのボロ小屋に住んでるよっ」

「わかりました。ありがとうございます」

 マスターとの会話を終えると俺はローレライさんに向き直った。

 ローレライさんは俺とマスターとの会話を聞いていたようで小さくうなずいている。

 俺とローレライさんはグラスに残っていたビールとミルクを一気に飲み干すと立ち上がった。

 そしてゲルニカさんとやらに会いにいくことにしたのだった。

 のだが――

「ちょっと待てや姉ちゃん!」

「うへへへぇ。すげぇべっぴんだなぁあんた」

「オレたちと一緒に飲もうぜぇ!」

 振り返ると酔っ払った大男三人が俺たちの行く手を塞いでいた。


「そこをどいてくださいませんか」

 酔っ払った大男三人にローレライさんが丁寧な言葉遣いで言う。

「おいおい、声もきれいだぜっ」

「どいてくださいませんか、だってよ!」

「育ちがいいお嬢さんってとこかぁっ」

 しかし完全に出来上がっている三人の大男たちはローレライさんの言うことなど聞こうともしない。

「いいからこっち来て一緒に飲もうぜっ」

「きゃっ」

 三人のうちの一人がローレライさんの手を握り強引に引っ張った。

 それを見て俺は思わず「やめろ」とその大男の腕をがしっと掴む。

「ん~? なんだてめぇ」

「男に用はねぇ、引っ込んでなっ」

「おら、どけよ!」

 俺は別の大男に胸を押されカウンターに突き飛ばされてしまった。

「クロクロさんっ」

 とここで、

「ちょっとちょっと、喧嘩するなら外でやってくれっ」

 マスターがカウンターから出てきて俺たちと大男たちの間に割って入ってくる。

 自分の店で暴れられたりしたら困るのだろう。

「おいてめぇ、外出ろやっ。オレたちが可愛がってやるぜっ」

「今さら逃げようったってそうはいかねぇぞ」

「オレたちが勝ったらその姉ちゃんは貰うからなっ」

 勝手なことを言う大男たち。

 これだから酔っ払いは始末が悪い。

「わかったよ、相手になってやる」

「クロクロさんっ……」

「大丈夫、ちゃんと手加減するから」

 俺は小声でローレライさんにささやいてから大男たちとともに酒場を出た。


 酒場の前の大通りで向き合う俺と大男三人。

 俺は決して背が低い方ではないが三人とも俺より頭二つ分はでかい。

「喧嘩だ喧嘩っ!」

「やれやれーっ」

「早くしろーっ!」

 酒場にいた客や通行人が俺たちを取り囲んであおってくる。

 気付けばいつの間にやら野次馬が百人くらい集まっていた。

「ひっく、オレたちに喧嘩を売るとはいい度胸だなっ」

 一人は首を回しながら、

「オレら三人ともAランク冒険者なんだぜっ。ビビったか?」

 もう一人は指をぽきぽき鳴らしながら、

「女の前でいいカッコしようとするから悪いんだぜっ」

 そして最後の一人は地獄に落ちろと言わんばかりのジェスチャーをしながら俺を見下ろす。

「よし、ここはオレが行くぜっ」

「待てよ、こんな面白そうなこと兄者に譲れるかよ」

「そうだぜ兄者。オレだって久しぶりの喧嘩だ、派手に暴れてやりたいぜ」

 と三人が言い合う。

 どうでもいいがこいつら兄弟だったのか……?

「面倒だ。いいよ、三対一で」

 今まで黙って話を聞いていた俺だったがここで口を開いた。

 Aランク冒険者相手なら三対一でも問題ないだろうと思ってのことだ。

「あんっ? ふざけてんのかてめぇっ」

「オレら相手に三対一だとっ」

「オレたちはAランク冒険者だぞっ。てめぇみてぇなの相手に三人でかかるわけぶふぇぇっ……!?」

 俺は顔をぐっと寄せてきた大男の一人を殴り飛ばした。

 でかい図体が放物線を描くようにして宙を舞って地面に落ちる。

 それを見てさっきまで騒がしかったのが嘘のように辺りは一転静まり返った。

「な、な、なんだとっ!?」

「て、てめぇ、な、何しやがったっ!」

「別に、ただ殴っただけだけど」

 大男二人は顔を見合わせる。

 お前が先に行けと目で合図を送り合っているようにも見えるが。

 と次の瞬間、兄者と呼ばれていた大男が俺めがけて「くそがぁっ!」と拳を振り上げ向かってきた。

 俺はそれを難なくかわすとがら空きになっていたお腹にカウンターを打ち込んだ。

 大男が俺に体を預けるようにして倒れる。

「ば、ば、ば、馬鹿なっ……!?」

「まだやるか?」

「っ……」

 残った最後の一人は酔いがさめたらしく口をあわあわさせている。

「やらないなら二人を連れてさっさと帰ってくれ」

「……あ、ああ。わ、わかった」

 そう言うと一人残った大男は二人の大男を半ば引きずるようにして夜道に消えていった。

 周りにいた野次馬たちから大歓声が上がる中、俺はローレライさんのもとへと戻ると、

「今日はもう遅いんでゲルニカさんのところは明日行きましょう」

 声をかける。

「は、はい。わかりました」

 この後、俺とローレライさんは宿屋を探すとそこに泊まり今日一日の疲れをいやすのだった。

 ――俺の所持金、金貨十九枚と銀貨八枚也。


 翌朝、俺とローレライさんは西の町はずれに住んでいるというゲルニカさんとやらに会いに行くため宿屋をあとにする。

 クラスコの城下町をしばらく歩いているとだんだん人通りが少なくなってきた。

 それと同時に建物の数も減ってくる。

「ゲルニカさんの家はまだでしょうか?」

「ボロ小屋だからわかるって言ってましたけどね」

 酒場のオーナーの話ではゲルニカさんは魔物の研究をしている人らしいが一体どんな人なのだろう。

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