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第2話 記事を書こう

「というわけで、我が新聞部の存続を賭けて、新聞部創部以来初の記事を書くぞ!」

 僕は勢いよく、教壇……はないので壁をバンと叩く。

「うわー! また負けたー! 布布(ぬのぬの)、超強いっ!」

「甘いわね。オセロは端を獲ればいいというわけではないのよ」

「聞けよ!」

 何度もバンバンと壁を叩きまくる。

「うるさいわよ」

「逆に怒られた!」

 水麗はというと、むー、っと口を尖らせて盤上のオセロを回収し、自分と布姫のところに置き始めた。

 ……もう一回やる気かよ。

「いいかっ! お前たち! この新聞部の最大の危機が迫っているんだぞ!」

「え?」

 布姫の目が大きく見開き、こっちを見てくる。ようやくことの重大さに気づいたらしい。

「この部って、そんな名称だったの?」

「そこからかよ!」

「あれ? 『放課後、ちょっとゲームでもして時間を潰してから帰ろう部』になったんだよ」

「確かに、今の部の状況そのままを現したネーミングだけど、いつの間に変わったんだ?」

「昨日。布布と相談して決めたんだよ」

「そういう重大な相談を部長抜きでするな!」

「……そんなことより、佐藤くん」

 布姫は椅子の背もたれに寄り掛かり、胸の前で腕を組んで睨むようにしてこっちを見てくる。

「なんだよ? 僕が部長というのも初めて聞いたって言いたいのか?」

「そんな些細なことはどうでもいいのよ。私が認めなければ、佐藤くんが勝手に名乗ってるだけなんだし」

「僕は自称部長じゃなーい!」

「最大の危機って何?」

「あ、そこは気になるんだ?」

「この場所は私にとっては割と都合がいいのよ。あなたと同じ教室内にいなければならないという人生の汚点を補って余りある、ね」

「そこまでいいか? この場所」

 グルッと部屋の中を見渡す。

普通の教室の四分の一くらいの広さしかない上に、部屋の壁には色々な物が乱雑に置かれている。そのせいで、活動できるスペースがさらに削られ、教室机を三つ置くのが精いっぱいなほどだ。

用務員のお姉さんの温情で使わせてもらっているので文句は言えないが、正直に言えばもっと広く活動スペースがある教室が欲しかった。

まあ、新聞部としての活動は皆無なのだが。

「なるほど。それは由々しき問題ね。仕方ないから協力してあげるわ」

「わたしもー。ここでゲームとかするの楽しいもん。なくなっちゃったら嫌だなー」

 今の状況を改めて語ると、ようやく二人は乗り気になってくれたようだった。

「それでそれで? どんな記事を書くの?」

「その前に。条件を聞かせてちょうだい。ただ単に記事を書けばいいわけじゃないんでしょ?」

「うーん。取りあえず、新聞部なんだから新聞を出せとしか言われてないな」

「……ハードルが物凄く低いわね。というより、新聞部にはそのくらいの期待しかされていないということかしら」

 呆れ顔で肩をすくめる布姫の横で、先ほどから顎に手を当てて思案顔をしていた水麗が、パッと顔を明るくして手を上げる。

「はいはーい! じゃあ、私が昨日読んだラノベの感想書くよ!」

「それは新聞じゃなくって、読書感想文になっちまう。書かないとならないのは新聞だ」

「それなら、私が『佐藤達也、愚かなる十七年間の軌跡。愚人研究日誌』というのを書いてあげるわ」

「新聞だって言ってんだろ! 大体、お前とは一年ちょっとの付き合いだろ! どうして会う前の十六年間を書けるんだよ!」

「あなたを見ていれば、どんな過去をおくってきたかなんて手に取るように分かるわ」

「想像を研究って言うんじゃねえ!」

「見える……。見えるわ。佐藤くんの過去が」

 目をつぶり、胸の前で両手を広げる仕草をする布姫。きっと、占い師が水晶を見ているようなイメージなんだろう。

「……可愛そうに。とても悲惨な人生だったわね」

「お前の想像の中で僕は、どんなことになってるんだーー!」

「聞きたい?」

「いえ、結構です」

 僕らが話している間に、水麗が乱雑している物の山からカメラと『記者』と書かれた腕章、そして手のひらサイズのメモ帳とボールペンを取り出して装備していた。

「準備、オッケーであります!」

 ビシッと敬礼をする水麗。

 確かに色々な物があるとは思ったが、まさかカメラと腕章があるとは。しかも、勝手に使っていいんだろうか。

 まあ、ここにあるボードゲーム等はいつも勝手に使ってるから、今さらな気もするけど。

「記事のプランはあるのかしら?」

「もちろんだ、布姫。僕は、学校の七不思議について書こうと思う!」

 二人は僕の壮大な提案にビックリしたのか、眼を大きく開き、パチクリと瞬きをする。

「驚くほど、ありがちね」

「むー。普通過ぎる」

「あれ? そ、そう?」

「どうせなら、アメリカ大統領の不倫の最新情報くらいは言って欲しかったわ」

「いや、凄すぎるだろ、その情報」

「とにかく、記事を書くなら取材だね。どこに行くの?」

 メモ帳とボールペンを構えた水麗が真剣な眼差しで、こっちを見てくる。

 ……ヤバい。何も考えていなかった。何となく頭に浮かんだ記事になりそうなことを言っただけなんて、今さら言えなさそうだ。

「何も考えてなかったから、咄嗟に思いついたことを口にした、みたいな顔してるわよ」

「お前はエスパーかっ!」

「期限は明日までなのよね? 時間もないし、他に案も浮かばないし、千歩譲って愚凡なあなたの案に乗ってあげるわよ」

「どれだけ上から目線なんだよ」

「学校の七不思議かぁ……七不思議……。んー。あ、そうだ!」

 ペンとメモ帳をポケットにしまった水麗が、ポンと胸の前で手を打つ。

「わたし、校長がヅラだって聞いたことあるよ!」

「それは七不思議に入らないし、確かにそっちの方が記事として面白そうだけど、残念なことにもう校長は帰っちまってる時間だ」

「私が知ってる七不思議と言えば、園芸部の育てているナスビが、最近、よく盗まれるってことくらいだわ」

「それも七不思議に入らない!」

「じゃあ、トーテムポールの伝説は?」

「……?」

「え? トーテムポール?」

 不意に発せられた水麗の言葉に、布姫と僕は顔を見合わせて首を傾げる。

 そんな僕らの反応を見て、水麗も首を傾けた。

「あれ? 知らない? なんでもお願いを叶えてくれる、トーテムポールの伝説」

「んー。悪いが、水麗。とってもそそられる題材だけど、僕たちには時間がない。どこにあるか分からない物を探している暇はないよ」

「いやいや。この学校内の敷地にあるんだって。ここから十分くらいで行けるし」

 もう一度、布姫と顔を見合わせる。

「そんなに近いなら行ってみる価値はあるんじゃない?」

「うーん。それもそうか……」

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