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トーテムポールと学校の七不思議
トーテムポールと学校の七不思議
鍵谷端哉
現実世界ラブコメ
2025年02月03日
公開日
1.2万字
連載中
高校二年生で、新聞部の部長である佐藤達也はピンチに陥っていた。
今まで全く新聞の記事を書いていない新聞部に対して生徒会から活動をしないなら、部室を明け渡せと言われてしまった。
それに対して、慌てて記事を書こうとする新聞部。
メンバーである真栄城布姫(まえしろ ぬのめ)と法劉院水麗(ほうりゅういん すみれ)と共に、学校の七不思議の噂を記事にするため、夜の学校に忍び込む。
七不思議の噂の一つ、『トーテムポールは願いを叶えてくれる』という噂の真相を探るため、学校の敷地の端にある場所に向かう。
そこにはトーテムポールとは思えない、ただの四角い木の柱が刺さっているだけであった。

第1話 新聞部の日常

 校舎の裏側にある、トーテムポールは願いを叶えてくれる。


 どこの学校にも七不思議というものは存在するものだ。

 音楽室に飾ってあるベートーベンの目が光るとか、ピアノが勝手に鳴り始めるとか、人体模型が走り出すとか。

 学校の特色が出ているものとかあったりして、結構、面白かったりする。

 中には七不思議と言っているのに二十個近くある学校も存在するらしい。

 話が逸れたが、とにかく僕たち新聞部のメンバーは記事のネタに困っていた。

 だから、よくある学校の七不思議に目を向けるしかなかったのだ。

「別にいいんじゃない。記事なんて書かなくたって」

 新聞部の教室……というより、元々は用務員の物入れとして使われていた部屋の片隅で椅子に座り、読んでいる本から目を離さずにつぶやいたのは新聞部の副部長である真栄城まえしろ布姫ぬのめだった。

 腰まである長い黒髪に、冷たそうな釣り上がった目。透き通るような白い肌に、すれ違った男の八割は振り返るであろう美貌を持った彼女は、金持ちの令嬢……ではなく、逆にちょっと貧乏な分類に入る家の娘だ。

 ちなみに、新聞部の部長はこの僕である。

「お前なぁ……。今、部そのものの存在意義を否定したぞ」

「あら、ごめんなさい。佐藤くんは、いつまで生きているつもりなのかしら?」

「違う! 僕の存在意義を否定しなかったことに怒ったわけじゃねえ!」

「ああ……。私としたことが、思慮が足りなかったわ」

 読んでいた本をパタンと閉じた布姫が、スッと立ち上がる。そのまま僕の正面に向かい合ったと思うと、本を持った手を振り上げた。

 ……くそ、こうやってまともに顔を合わせると流石に照れちまう。こいつ、口と態度は悪いが、顔の造形は天使のようなんだよ――。

「ぐおっ!」

 突如、脳天に電気が奔ったような衝撃が突き抜ける。

「驚いたわ。脳みそ飛び出さなかったわね」

「お前の行動と言動の方が驚くわっ! なに? お前、本の背表紙で僕の頭蓋骨を砕くつもりだったの?」

「……まあ、本に脳しょうが付着しなかったから、結果的には良かったのかしら」

「いや、僕の脳みそが本当に飛び散らなかったことに安堵しろよ!」

「なによ? せっかく、佐藤くんのご希望に応えてあげようとしたのに。こんなこと、百年に一度くらいよ?」

「僕の希望が通るのは百年に一度っ!? いやいや、突っ込むところを間違えた。僕、お前に殺してって、いつ頼んだんだよ?」

「私に佐藤くんの存在意義を消して欲しいんじゃなかったの?」

「……悪かった。僕が言いたかったのは、新聞部の存在意義を否定しないでってことなんだ」

「それなら、そうと早く言いなさいよ。思わずテンションを上げてしまったじゃない」

「僕を殺すことにテンション上げるなよっ!」

 などと突っ込みをしている間に、再び椅子に座って本を読み始めてしまう布姫。

 僕を殺せないので興味を失ったようだ。

 まったく……。よくこいつと一年も一緒で、無事でいられたよな……。

 辟易として深いため息をつくと同時に、それを吹き飛ばすように勢いよく教室のドアが開く。

「いぇーい! 水麗ちゃんのご出勤……じゃなかった、ご出部だぞー!」

「……そんな言葉はない」

 放課後だというのにハイテンションで現れたのは、我が新聞部員最後の一人、法劉院ほうりゅういん水麗すみれだ。

 ショートカットの茶色かかった髪に、クリッとした大きな瞳をしている。

 布姫が綺麗なら、水麗は可愛いという言葉が似合うだろう。

 ある意味、布姫と対極を為している。

プロポーションもボンキュッボンだし。布姫はキュッキュッ……。

「ギュッ!」

 いきなり後頭部に本が直撃する。

「……手が滑ったわ」

「どういう読み方をしたら本が飛ぶんだよ! というか、取りあえず謝れ!」

「誠意のこもっていない謝罪ほど、意味のないものはないわ」

「じゃあ、誠意を込めればいいじゃねーか」

「無理よ」

「……あっ、そう」

 この手の会話にはもう慣れた。これ以上、会話を続けたところで時間と僕の精神が消費されていくだけだ。

「よっしゃー! 部活頑張るぞー! 達っちん、今日は将棋で勝負だー!」

「うん。いきなり部活放棄だな」

 新聞部と言っても、創部して一年と二か月が経つが書いた記事は未だゼロ。

 放課後に部室に来ては、好き勝手に時間を潰して帰っていくだけの、言わば『帰宅部と思われるのは嫌なので、時間でも潰してから帰ろう部』に成り下がっている。

 うちの学校は文武両道をモットーとしていて、生徒は全員なにかの部活に入らないとならない。

 それに、生徒の積極性を取り入れるという教育方針のため、部の創立に関してはものすごく緩い。

 何人以上いないとダメとか、顧問の先生がいないとダメとか、そういった校則がない。

 たった一つ、創部の際に必要なのは『何が起こっても学校に対して文句は言いません』という誓約書にサインすることだけだ。

 ……いや、ダメだろ、その方針。学校として。教育の場として。

 とにかく、そういった理由で部はウィルスのように増殖していく。

 だが、学校内の敷地や教室の数は有限なので、すぐに使える教室はいっぱいになる。

 そこで、部費は当然として、活動する場である教室は、部活としての成果によって生徒会が割り振っていくのだ。

 では、なぜ、一年以上何もしてこなかった新聞部に、このような活動の場があるのか?

 その真相はここが『教室じゃない』からである。

 用務員室の隣にある物置部屋を用務員のお姉さんと交渉して、言わば個人的に使わせてもらっているからだ。

 生徒会から見れば、新聞部は活動する場を持っていない弱小部だと認知されていた。

 だが、同じように活動の場を持たない奴らに、ここのことが見つかってしまったのだ。

 生徒会にチクられ、今まさにこの場所を取り上げられそうという状況に陥っている。

 何とか交渉して、最初にこの場所を見つけたという功績を踏まえ、一日だけ活動報告する期間を与えられたというわけなのだ。


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