目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
伯爵令嬢と町娘、ハズレスキル持ち同士でダンジョンに潜ったら愛が芽生えた話
伯爵令嬢と町娘、ハズレスキル持ち同士でダンジョンに潜ったら愛が芽生えた話
一条TOMA奈緒
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年02月03日
公開日
3,318字
連載中
 ダンジョン攻略を目指す冒険者が集まる国家「レガリア王国」を舞台とした百合ファンタジー。

 ハズレスキル「推し魔法」を持った主人公の町娘「ポルカ」とハズレスキル「握力強化」を持ったヒロインの伯爵令嬢「カナ·レイボーン」が協力してダンジョン攻略を目指し、愛を紡いでいく。

 一般家庭に生まれ、両親に自分の人生を支配されていると感じていたポルカは家出し、冒険者となる。しかし自身に発現した「推し魔法」が「使用対象への好意に応じて使える魔法、能力が変わる」というもので役に立たないことから、ポルカはダンジョン内で一人採取活動をして生き繋いでいた。
 
 ある日、ポルカはダンジョン内で血まみれで倒れているカナを発見し救助を試みる。そこでポルカは瀕死のカナと言葉を交わし、彼女の生き様に惚れる。カナに好意を抱いたポルカは「推し魔法」を効果的に発動することができ、カナの命を救う。この出来事がきっかけでポルカとカナはパーティを組むことになる。

第1話 プロローグ

 ボク、ポルカは今、とても幸せなキスをしている。



 ボク達はお互いの温かく柔らかい唇を味わい、強く抱きしめ合っている。

 ここはダンジョン地下7層。岩壁に包まれたダンジョンの洞窟内。


 今、ボクの目の前には、頬が上気して朱に染まった絶世の美女の姿がある。


 ――彼女の名は「カナ・レイボーン」。ボクの恋人だ。


 猫を彷彿とさせる可愛らしさと鋭さが混在した確固たる意志を感じる目に、さらりと伸びた金髪ストレート。身に纏う鎧は、機動性を重視したスリムな装いで、白を基調とした色合いと蝶の羽をイメージしたフリフリのスカート部分が彼女の高潔さと可憐さをよく表している。


「カナ……」


「ポルカ……」


 じめじめとした湿気がカナの肌を濡らして汗を誘発する。そして、その汗と石鹸の香りが交わることで、ボクは……甘美な世界ヘ深く――深く誘われていく。


 ボク達の傍では、魔力を大量に含んだ瑠璃色に光る幻想的な泉が輝いている。そして薄暗い洞窟内で抱きしめ合うボク達を、艶やかに照らしている。


「ポルカ。私にこの泉を見せたかったのですか?」


「うん、そうだよ」


 ボクはカナに微笑んだ。


「ダンジョン調査をしている時に、この壁だけ薄いことがわかったんだ。しかも岩壁が湿っていたから、きっとダンジョンの魔力を多く含んだ水が流れて、小さな川ができてるかもしれないと思ったんだ。でも、こんな綺麗な泉になってるとは思わなかったよ」


「そうですか……」


 カナは涙を瞼に溜めながら、喜びを噛みしめるように微笑んだ。

 そして身体を震わせながら言った。


「だからといって……」


 カナはダンジョンの岩壁の方向へ指をさした。


「だからといって……あんな大穴を空けて良かったんですの?」

「あー……後で冒険者ギルドに説明しておくよ」


 カナは頭を抱えた。


「あなたはこんなに可愛い姿なのに、最近やることが大胆すぎますわ! この泉を見せるためとはいえダンジョンの壁を爆破してしまうなんて!」


「爆破したのはカナの【スキル技:スペース・クラッシュ】だよ」


「爆破したのは貴女の『爆発筒ばくはつづつ』というアイテムです! 貴女にスキルを使うようお願いされたから言う通りにしたのに……私はこんなことになるとは思っていませんでしたわ!」


 カナは顔を赤くさせ、頬を膨らませながらプンプン怒った。


「それよりも、『可愛い姿なのに』という部分を詳しく教えてくれないかな?」


 ボクは話題を逸らすために別の話を差し込んだ。


「な、なんですの! 今はそんな話をしているんじゃありませんよ!」

「ねえ、言って」


「もう……そんなに可愛くお願いされたら……」


 へへ……やっぱカナはちょろいな。

 ボクは内心悪い笑みを浮かべた。


「その……ポルカはとても可愛らしい女の子ですわ」


「もっと詳しく!」


「その……貴女の黒髪ショートボブにくっきりとした丸い目がとても可愛らしいですわ! 身長も私よりも15センチほど小さいから、キスするときに上目遣いで少し背伸びする姿がとても可愛らしいですわ! それなのに貴女は、最近は凄い格好良くて……その特注で作った『燕尾服型戦闘服』もよく似合っていてとても素敵ですわ!」


「『キスする時の上目遣い』ってこんな感じ?」


 ボクは再び、軽くカナの唇にキスをした。


「はわああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 カナの顔はリンゴのように赤くなった。

 そしてカナは洞窟内に鳴り響くほどの声を上げた。


「貴女は……最初に出会った頃はこんなに積極的じゃなかったですわ! 初心な少年のような反応で可愛かったのに何ですの! 私の心臓が持ちませんわ!」


「カナがボクをこんな風にしたんだよ」


「そそそそそそそんなことありませんわああああああああ!」



 ボクはニヤニヤしながらカナを眺めた。


「こんな幸せな時間がずっと続いたら良いのにな」

「?」

「あ、ごめん。つい独り言を言ってしまった」



 ボクは感傷に浸りながらその場に座り込み、泉を眺めた。



「そうですわね。この幸せな時間を共に歩んでいくためには、立ちはだかる障害を乗り越えていかなくてはなりません」


 ――ボクは元町娘の冒険者。そして、カナは伯爵令嬢。


 ボク達は二人とも「家」から逃げて冒険者になった。好きでもない男を宛がわれ、無理やり家族を作らされそうになったから。


 ボク達はそれが嫌で、どうしても「自分の人生」を手に入れたくて、こうやって冒険者として戦っている。


 ――ハズレスキル持ちの無能冒険者と言われた者どうし、パーティを組んで。


「いつか……貴女と『リリィ』になりたいと考えておりますわ」



 カナは覚悟を決めた声で言い、ボクの隣に座った。そして、ボクの肩に頭を乗せた。



「『リリィ』とは冒険者にとっての結婚制度の一つ。女性冒険者同士の結婚形態だね」

「そうですわ」


 カナはボクの手を握った。



「そのためには、【ネームド・エネミー】を倒さないとね」



 結婚制度は貴族のみに適用される制度。

 しかし、冒険者も国から爵位を得る方法がある。


 それが冒険者ギルド、そして国から脅威と認定された【ネームド・エネミー】を討伐すること。それを成し遂げた冒険者はその功績を称えられ、『ダンジョン・ロード』という称号と伯爵の爵位を与えられることとなる。


「私は『レイボーン家』の娘。だから、ダンジョン・ロードとなって自分自身の爵位を新しく得ることができれば――独立できますわ!」



 カナは家から独立できれば、自分の人生を自分で決めれるようになる。

 ――そして、ボクと人生を共にすることができる。


「約束するよ。ボクはネームド・エネミーを倒し、キミにプロポーズをする」


 カナはその言葉に目を丸くし、頬を膨らませた。


「いいえ! 私の方からプロポーズしますわ!」

「いいや、ボクだね!」


 ボク達は猫がじゃれ合うように喧嘩をした。



「わかったわかった。じゃあその時を楽しみにしているよ」


「もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「さて、そろそろ行こうか」



 ボクは立ち上がり、カナに手を差し出した。そしてカナはボクの手を掴み、頬を膨らませながら立ち上がった。


「ところで、この大穴どうしますの?」


 ボク達は穴からダンジョンの通常ルートに出て振り返り、改めて穴の状態を見た。


 見事にダンジョンの壁は爆発筒により破壊され、冒険者二人並んで通れるくらいの穴が開いてしまっている。


「この穴を閉じよう。ボクのスキル【推し魔法】でキミのスキル【握力強化】の力を底上げするから、君の力で空間を歪ませて壁の穴を閉じてしまおう」



 ボクはそう言うと精神を集中させ、カナの姿を見つめた。


 ――ボクの推し魔法は使う相手に対する想いの強さで性能が変わる。


 ボクは、カナに対する愛情を爆発させた。 



 ――【推し魔法 スキル技:スーパーチャージ(スキルエンハンス)】


 魔力コインまたは魔力札を消費して発動。対象が持つスキルの性能を上げる。その効果は相手に対して抱く愛情によって変動する。 


 ボクの身体を青白い魔力が包み込み、そして赤い色に変わった。そして、ボクの右手に魔力が集中し、赤い魔力の札が出現した。


 ボクはそれをカナに投げると魔力札は弾けて赤い光の粒子となり、カナの身体を包みこんだ。カナはそのボクの魔力を利用し、スキルを発動した。 


 ――【握力強化 スキル技:スペース・クラッシュ】


 空間を握りつぶす。これにより対象を自分の眼の前に瞬時に移動させたり、自分が目的の場所へ瞬時に移動したり、空間ごと壁を変形させることができる。



 「おおー見事に穴が塞がったね」



 空間自体が握力によって歪み、大穴が生じていた空間が潰された。

 大穴の周りの岩壁が大穴があった中心に向かって「伸びて」おり、大穴が塞がった状態となっている。


「これで良し……っと」


「……ちゃんと冒険者ギルドに報告するのですよ」


「わかってるって! そんなに言うなら、ボクを冒険者ギルドまで連行してよ」



 ボクはそう言いながらカナの手を握った。


「もう! ポルカったら!」



 カナは頬をふくらませ、しかし嬉しそうにボクの手を握り返した。

 ボクはカナの手のぬくもりを感じながら、幸せを噛みしめた。



 ――ダンジョンの脅威ネームド・エネミーを倒し、カナと『リリィ』になる。

 その夢を胸に抱いて、ボク達は歩き出した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?