1. 自分に最も近い相手と恋をする時代
西暦2065年。
α世代の恋愛は、「自分と最も相性のいい遺伝子・思考を持つ相手と恋をする」ものになっていた。
「ミラー・マッチング」と呼ばれるAIが、脳波・遺伝子・価値観を解析し、
「自分と99.9%同じ考えを持つ相手」を見つけてくれる。
同じ趣味、同じ感性、同じ未来を描ける相手。
もうすれ違うことも、喧嘩することもなく、最適な恋が保証される時代になった。
「最も似た二人こそ、最も幸せになれる。」
それが、α世代の恋愛の常識だった。
でも——一人だけ、その常識を疑う少年がいた。
2. 最悪の相性
17歳の如月レンは、ミラー・マッチングを受けることになった。
しかし、AIの結果は**「相性の合う相手なし」**。
彼は、誰とも99.9%の相性を持たない異端者だった。
「……俺、一生恋愛できないの?」
そんな彼の前に、一人の少女が現れる。
彼女の名前は橘ユイ。
ユイは驚くべき結果を持っていた。
「あなたと最も相性が悪い相手」として、AIが弾き出した存在だった。
「すごいね、私たち。相性0.1%らしいよ?」
「いや、それ恋愛できる数値じゃないから。」
「じゃあ、試してみる?」
ユイは笑いながら、レンに言った。
「ミラー・マッチングなんて、ただのデータでしょ? 私たち、AIが間違ってることを証明してみない?」
3. “合わない”からこそ、好きになる
レンとユイの関係は、最初からめちゃくちゃだった。
趣味も違う、食の好みも違う、考え方もまるで違う。
——AIが「最悪の組み合わせ」と言ったのも納得だった。
でも、レンは気づいてしまった。
ユイといると、知らないものを知れる。
自分とは違う感性に触れるたび、世界が広がる。
「……相性が悪いって、悪いことなのかな。」
ユイは笑った。
「私たち、合わないけど、飽きないよね。」
α世代の恋愛は、「同じ人間同士がくっつく」のが最適解とされていた。
でも、レンとユイは違った。
「俺たち、もしかして、相性0.1%じゃなくて**100%**だったりして。」
「やば、AIがバグるね。」
こうして、α世代にとって“最適じゃない”けれど、
「新しい価値を生む恋」が生まれた。