1. 運命の相手が“見える”時代
西暦2055年。
α世代は、もう「運命の人」を探す必要がなかった。
最新の遺伝子解析と神経データの融合により、「ソウルメイト・インジケーター」が開発された。
この技術を使うと、自分と100%の相性を持つ相手が世界中でただ一人だけ、視界に“青い光”として表示されるようになる。
人々はもはや悩まなかった。
恋に迷うことも、間違えることもなく、運命の相手だけを愛すればよかった。
——少なくとも、普通の人は。
2. 運命の相手が“見えない”少年
18歳の朝倉ユウマは、異常だった。
彼には、ソウルメイト・インジケーターが何も表示しなかった。
青い光が見えない——つまり、彼には「運命の相手が存在しない」ということだった。
「俺って、一生誰とも結ばれないの?」
「そんなわけないよ。ただ、まだ出会ってないだけじゃない?」
そう励ましてくれたのは、幼馴染の咲良ミユ。
彼女はすでに運命の相手を見つけていたが、なぜかまだその人と結ばれずにいた。
「ミユの“青い光の相手”って、誰なの?」
「……まだ、わからないんだ。」
3. 禁じられた愛
ある日、ユウマは偶然、ミユの“本当の秘密”を知ってしまう。
彼女のソウルメイト・インジケーターは、ずっと彼に向かって光っていたのだ。
「……どうして、俺に教えてくれなかった?」
「だって、あなたには光が見えてないんだよ?」
——ユウマは、ミユの運命の相手だった。
でも、彼の目にはそれが見えない。
「……私があなたを好きになっても、あなたは私を好きになれないの?」
「そんなわけない! 俺は——」
ユウマの心は叫んでいた。
けれど、彼の「好き」は、科学的に証明されなかった。
もし彼がミユと付き合ったとしても、周りからは「非合理的な恋」として扱われる。
「本当に愛し合っているかどうか」を証明できない関係は、
もはやこの時代では「成立しない恋」とされていた。
でも——ユウマは選んだ。
「科学が何と言おうと、俺はお前を好きだ。」
ミユの瞳に涙が浮かぶ。
「……私も、ずっと信じてた。」
ソウルメイト・インジケーターが示さなくても、
二人の心は、確かに互いを選んでいた。
こうしてα世代にとって、
「運命の証明がない」初めての恋が生まれた。