目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ハートビート・シンクロ

1. 感情が可視化される時代

西暦2050年。

α世代は、もはや「言葉で愛を伝える」ことをしなくなっていた。


人々は生まれたときから**「エモグラフ」**と呼ばれる脳波・心拍データを解析するデバイスを装着し、自分や相手の感情をリアルタイムで可視化できるようになっていた。

好きなら「ドキドキ」が数値化され、嫌いなら「冷めた波形」が記録される。


これにより、嘘の告白や曖昧な恋愛関係は消え、**「本当に好きかどうか」**を即座に知ることができる社会になっていた。

——恋は、感覚ではなく、データで管理されるものとなった。


でも、その中で唯一、感情を数値化できない人間がいた。


2. 心拍ゼロの少年

17歳の**響(ひびき)は、生まれつき「エモグラフが測定不能」**という異常体質を持っていた。

どんなに動揺しても、どれだけ好きでも、心拍数は常に「変化なし」。


——つまり、彼が誰かを好きになっても、証明できない。


そんな彼に興味を持った少女がいた。

彼女の名前は白石アカネ。


「ねえ、本当に“何も感じてない”の?」

「感じてるよ。でも、数値が出ないだけ。」

「でも、それって“恋がない”のと同じじゃない?」


響は答えられなかった。

この世界では、エモグラフに反映されない恋は存在しないのと同じだった。


3. 証明できない愛

ある日、アカネは自分のエモグラフを見せた。

響と話している間、彼女の「好意の波形」は確かに増えていた。


「私の“好き”は、見える。でも、あなたの“好き”は、見えない。」

「……俺は、どうすればいい?」

「証明できない恋を、あなたは信じる?」


響の心臓が、激しく鳴った。

でも、デバイスには何の反応も出ない。


それでも——彼は、確かに「好き」だった。


「……俺は、信じるよ。」


この世界では、誰もがデータで愛を証明する。

でも、響の恋だけは、証明できないからこそ、本物だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?