1. 記憶を書き換える時代
西暦2045年。
α世代が大人になり、恋愛は**「最適化」**されていた。
「恋愛感情のバグを排除し、最も幸福な体験を提供する」
そんな謳い文句のもと、人々は**「ラブリライト」**と呼ばれる技術を使っていた。
ラブリライトは、失恋や悲しい思い出を書き換えることができる。
失恋したら、記憶を編集し、**「最初から恋をしなかったことにする」**こともできた。
つらい片思いをしているなら、相手への感情を少しずつ薄めていくこともできる。
人々はもう、恋愛で苦しまなくてよくなった。
だから、純粋な恋は消えつつあった。
2. 消された恋
18歳の水瀬カナタは、ラブリライトを使うことをためらっていた。
周りの友人たちは、すでに何度も失恋の記憶を書き換え、
「痛みのない恋愛」を楽しんでいた。
ある日、カナタは一人の少女に出会った。
「君、私のこと覚えてる?」
少女の名前は相沢ミオ。
カナタは、彼女を見た瞬間に胸が苦しくなった。
でも——なぜか、彼女との記憶がない。
「……ごめん。俺、君のこと知らない。」
ミオは寂しそうに笑った。
「そうだよね。だって、あなた……私のこと忘れたんだもん。」
カナタは知らなかった。
——1年前、彼はミオと恋人だったことを。
でも、ミオを失うのが怖くて、自らラブリライトを使い、彼女の記憶を消してしまっていた。
3. 記憶を取り戻す恋
「私は忘れられても、私はあなたを忘れたくなかった。」
ミオは泣きながら訴えた。
「恋を最適化するって、そんなに大事?
痛みを避けるために、大切な人のことまで消してしまうの?」
カナタの心に、奇妙な違和感が広がる。
"知らないはずの"ミオの姿が、なぜか懐かしい。
消したはずの感情が、胸の奥で疼く。
——それは、ラブリライトのバグだった。
どれだけ記憶を消しても、「本当に好きだった人の気持ち」だけは消えない。
恋愛は、データのように書き換えられるものではなかった。
「……もう一度、君を好きになってもいい?」
ミオは涙を拭い、微笑んだ。
「ううん、好きになるんじゃないよ。
——本当は、最初から好きだったの。」
"ラブリライトでは消せない恋"。
それこそが、α世代が初めて知った「本物の愛」だった。