VR技術が発展し、亡くなった人をデジタルデータとして再現できるサービスが登場した。
タクミは、3年前に亡くなった恋人・エリカとVR空間で再会する。エリカのアバターは生前の記憶を基に再構築され、彼女の声も、仕草も、笑顔もすべてがそのままだった。
「久しぶりだね、タクミ」
「エリカ……本当に君なのか?」
「どうだろう? でも、私はあなたが知っているエリカの記憶を持っているよ」
最初は戸惑いながらも、タクミはエリカとの時間を再び楽しむようになった。VR空間でデートをしたり、夜遅くまで語り合ったり。まるで、彼女が生き返ったかのようだった。
しかし、日が経つにつれてタクミの心の中に疑問が生まれる。
「これは本当にエリカなのか?」
エリカは生きているのではなく、彼が知っている記憶を元に作られたプログラムに過ぎないのではないか。そう思うと、ふと虚しさが押し寄せた。
ある日、エリカは微笑みながら言った。
「ねえ、タクミ……もう、そろそろいいんじゃない?」
「え……?」
「私と一緒にいることで、あなたは前に進めてる?」
タクミは言葉を失った。
エリカは優しく微笑みながら、彼の頬に触れる仕草を見せた。
「あなたには、あなたの未来があるの。私と一緒にいることで、その未来を止めてしまわないで」
タクミの目から涙がこぼれた。ずっと彼女を忘れたくないと思っていた。しかし、それはエリカの望みではなかったのかもしれない。
「……ありがとう、エリカ」
最後にもう一度だけ、彼は彼女の笑顔を目に焼き付けた。そして、意を決してVRからログアウトした。
ヘッドセットを外し、現実の部屋に戻ったタクミは、静かに深呼吸をする。
「前に進まなきゃな……」
そう呟きながら、彼は新しい未来へと歩み出した。