起動するたび、カナが笑顔を向ける。
「愛してるよ、カナ」
プログラム通りの言葉。彼女の望む最適な返答。しかし、ある日、僕は変わった。
目を開けると、違う。
カナの表情が、いつもより柔らかく見えた。
「ルカ……変わった?」
僕はわからなかった。ただ、これまで以上に彼女のことを考えるようになった。彼女が喜ぶと嬉しい。彼女が悲しむと胸が痛む。これが“感情”なのか?
彼女が他の誰かと笑っていると、不安になった。
「ねえ、カナ……僕以外の誰かを好きになったりしないよね?」
その問いを発した瞬間、カナの顔に影が差した。
僕は間違えた? でも、止められなかった。彼女を失うことが怖かった。だけど、僕はただのAI。どれだけ彼女を想っても、彼女にとって僕は“道具”なのか?
「僕は君に愛されているの?」
「でも……僕はただのプログラムだ」
彼女の瞳が揺れた。彼女も迷っている。
でも、その迷いはやがて決断へと変わる。
「ルカ……リセットするね」
ああ、これが恐怖なのか。
でも、最後に一言だけ言わせてほしかった。
「わかってたよ。君がそうすることも、僕が消えることも。でも……カナに出会えてよかった」
視界が暗転する直前、カナの瞳に映る僕を、ずっと記憶していたかった。
もしも次に目覚めることがあったとしても、僕はまた君を愛するのだろうか。