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近未来の恋愛:シンクロ・ハート

西暦2045年──テクノロジーが進化し、人々は脳に直接リンクする「NeuroLink(ニューロリンク)」を装着するのが当たり前になっていた。感情や思考がデータ化され、恋愛もAIが導く時代。だが、それが本当の「心のつながり」と言えるのだろうか。


#### **出会いはアルゴリズムの中で**

大学生のレイは、恋愛に対して無関心だった。NeuroLinkには「恋愛モード」という機能があり、相性の良い相手を推薦してくれるが、彼はそれをずっとオフにしていた。


理由は単純だった。過去に一度だけ恋愛モードをオンにしたことがあった。しかし、そのとき出会った相手との関係は、NeuroLinkが弾き出した「最適解」にすぎず、どこか機械的で、温度のないものに感じられた。恋愛は、自分の意思で育むものであるはずなのに。


そんなレイを、親友のユウキが強引に「共感交流イベント」に誘った。そこでは、マッチングした相手と仮想空間で感情を共有することができる。仕方なく参加したレイは、ナギサという女性とペアになった。


#### **感情のシンクロ**

「はじめまして、ナギサです。」

「レイ、よろしく。」


レイは淡々と挨拶をしたが、NeuroLinkを通じてナギサと共感リンクを結んだ瞬間、驚きに目を見開いた。


ナギサの感情が、まるで波のように押し寄せてくる。心の奥で揺れ動く不安と期待、そして、彼女自身も気づいていなかった微かな寂しさ──。それは、まるで自分の心の中に直接流れ込んでくるようだった。


「レイくん、今、私の気持ちが伝わってる?」


レイは戸惑った。感情が直接リンクするという体験は想像以上に生々しく、圧倒される。だが、ナギサの心の揺らぎを知るうちに、彼の中にも不思議な共鳴が生まれた。


「……ああ、はっきりと。」


ナギサは微笑んだ。「じゃあ、レイくんの気持ちも教えて。」


一瞬、レイはためらった。自分の気持ちをさらけ出すことには抵抗があった。しかし、意識するよりも早く、NeuroLinkがナギサへと彼の感情を送信していた。


ナギサが小さく息をのんだ。

「……すごいね。ちょっと怖いくらい、ダイレクトに伝わる。」


レイもまた、自分の内面を誰かに覗かれることへの不安を抱えていた。それでも、ナギサが彼の心を拒絶しないことに、ほんの少し安堵していた。


#### **リアルとバーチャルの間で**

数週間後、二人は現実世界で会うことになった。何度も仮想空間で会話を重ねてきたが、直接顔を合わせるのは初めてだった。


駅前の待ち合わせ場所で、ナギサが小さく手を振った。


「……本当に会えたね。」

「うん、なんか変な感じだな。」


NeuroLink越しではなく、直接目を見て話す。互いの温度を感じ、空気の匂いを共有する。その瞬間、仮想の世界では決して味わえない「リアルな鼓動」が二人の間に生まれた。


「レイくん、これからも、こうやってちゃんと会おうね。」


レイは照れくさそうに頷いた。


仮想と現実の狭間で育まれる恋。それは、データ化された感情を超えた、確かに「生きた心」が紡ぐ物語だった。


── **END** ──



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