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ラスト・メモリー

1. 恋愛の消費期限が決まっている時代

西暦2060年。

α世代の恋愛は 「最適な期間だけ」続くもの になっていた。


人々は 「最適な恋愛持続時間 Love Duration Optimization System(LDOS)」 によって、

幸福のピークで別れ、記憶を更新する。

別れの痛みはない。次の恋も、最適に始まる。


——ただ一人、そのシステムを拒否した少女がいた。


2. 期限切れの恋人

19歳の 久遠レイジ は、LDOSによって

「365日間の恋」 を与えられた。


恋人は 七瀬ナギサ。

二人の恋は、完璧に幸福だった。


そして、365日目の夜——通知が届いた。


「最適な交際期間が終了しました。

お互いの記憶を更新し、新しい恋へ進んでください。」


レイジはため息をつき、スマートリングに指をかけた。

通知を承認すれば、彼女との記憶は 穏やかにフェードアウト する。


だが——ナギサは、首を振った。


「……私は、この恋を忘れたくない。」


3. “最適じゃない”愛の形

レイジは目を見開いた。


このまま記憶を残せば、恋は 緩やかに腐り、いずれ傷つけ合う。

それは、α世代の常識では 最悪の選択 だった。


ナギサは微笑んだ。


「幸せだけが、恋じゃないでしょう?」


レイジの手は止まる。


思えば、LDOSに従った恋愛は、いつも理想的だった。

だが、それが**「本当に自分の恋だったのか」** すら、今は分からない。


「……もう一年、付き合ってみるか」


「ううん、一生。」


彼らの決断は、時代に逆らうものだった。


こうして、α世代で 初めての“期限のない恋” が始まった。

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