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シミュレーテッド・ラブ

1. はじまり——α世代の恋愛事情


西暦2038年。

α世代が成長し、Z世代の若者たちと交差する時代。恋愛の形も大きく変化していた。


恋人探しは、もはやマッチングアプリの時代ではない。


**「AIコンパニオン」**と呼ばれる高度な仮想恋愛シミュレーターが普及し、相性の良い相手とのシミュレーション恋愛を何度も試したうえで、リアルな交際に発展するのが一般的だった。


——失敗しない恋。


それが、この時代のスタンダード。


しかし、そんな世界に違和感を抱く青年がいた。


2. 出会い——AIが選ばなかった相手


Z世代最後の世代、27歳の高槻レンは、AIに導かれる恋愛にどこか味気なさを感じていた。


「シミュレーションで相性がいいってわかってから会うのって、なんか違う気がするんだよな……」


そんなある日、彼は街のカフェでひとりの女性に目を奪われた。


彼女の名は茉白(ましろ)。21歳、α世代の大学生。


彼女はテーブルの上に、スマホではなく紙の本を広げていた。


この時代に、紙の本を読む人はほとんどいない。


思わずレンは声をかけた。


「それ、面白い?」


茉白は少し驚いた様子で顔を上げ、ゆっくりと微笑んだ。


「……たぶん、AIはこの本をおすすめしてくれなかったと思う。でも、私は好き。」


レンはその言葉に、不思議な共感を覚えた。


——AIが最適解を出さない選択。そこにこそ、本当の“何か”がある気がした。


3. 交錯する価値観


二人は少しずつ距離を縮めていった。


だが、α世代の茉白にとって、レンの考え方はどこか古くさく感じることもあった。


「なんでシミュレーションを使わないの?」


「だって、それで“正解”を知っちゃったら、つまらなくない?」


レンは、未知の相手を知っていく過程こそが恋愛の醍醐味だと信じていた。


一方、茉白は生まれたときから**「失敗しない恋愛」**が当たり前の世界で育ってきた。


「……でも、もし私たちの相性が悪かったら?」


「それは、試してみなきゃわからないだろ?」


茉白は戸惑いながらも、その言葉に心を動かされた。


4. シミュレーションの外へ


ある日、茉白は密かにAIに問いかけた。


「私とレンの相性は?」


AIの答えは——「72.3%」。


決して低くはないが、最適とは言えない数値だった。


最適解ではない恋愛に、意味はあるのだろうか?


茉白は迷った。


でも、心のどこかで、レンといる時間が“最適”かどうかなんて関係ないと思う自分がいた。


その気持ちを信じてみたい。


茉白は、ある決断をする。


「この数値を信じるのは、やめよう。」


そして、レンに微笑んで言った。


「私たち、AIが選ばなかった恋をしてみようか。」


——α世代とZ世代の間で生まれた、新しい恋愛の形。


それは、シミュレーションの枠を超えた、**"本物の恋"**だった。



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