2059年、東京。
α世代の高校生たちは、生まれたときからAIやデジタルに囲まれ、恋愛さえもデータで測定できる時代を生きていた。
「好き」という感情さえ、数値化できる世界で——それでも、本物の恋は存在するのだろうか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ユウキ、私のこと好き?」
放課後の図書室で、いきなりそう聞かれた。
顔を上げると、幼なじみのミオがじっとこっちを見つめている。
「え、なんだよ急に?」
「いいから、測ってみて」
そう言ってミオは、自分のスマートリングを指差した。
それは、心拍数や脳波を解析し、恋愛感情を数値化できる最新のデバイス——「ラブメーター」。
「これに指をかざせば、本当に私のこと好きか分かるよ」
「……そんなの、測る必要ある?」
「あるよ。だってユウキ、ずっと曖昧なんだもん」
ミオは寂しそうに笑う。
「でもね、もしこの数値が低かったら、私もうユウキを諦める」
そう言われたら、もう逃げられなかった。
僕は深呼吸して、スマートリングにそっと指をかざす。
画面に表示された数値は——「65%」。
「……あ、微妙」
ミオが苦笑する。
「まあ、嫌いではないってことかな」
「ちょっと待てよ!」
僕は思わず立ち上がった。
「俺、本当にミオのこと好きだよ!」
「でも、数値が証明してるよね?」
「そんなの関係ない!」
気づけば、僕は彼女の手を強く握っていた。
「数値がどうとかじゃなくて、お前が誰かに取られるのが嫌だし、一緒にいたいし……それが好きじゃなかったら、なんなんだよ!」
ミオは驚いたように目を見開き、そしてふっと微笑んだ。
「……今の、もう一回測ってみる?」
「……ああ、やってみろ」
僕は再びスマートリングに指をかざした。
——画面に表示された数値は 「98%」。
ミオは嬉しそうに微笑んだ。
「ほらね、心は数値よりも本物なんだよ」
僕たちは顔を見合わせて、笑い合った。
——恋は、データでは測れない。
それを証明したのは、僕たち自身だった。