2058年、東京。
α世代の高校生たちは、あらゆる情報を一瞬で処理し、コミュニケーションもデジタルを通して高速化していた。
人間関係でさえ、相性診断AIが「最適なパートナー」を弾き出す時代。
でも、心はそんなに単純じゃない。
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「高瀬、俺と付き合わない?」
昼休み、屋上で突然そう言われた。
驚いて振り向くと、そこにいたのはクラスメイトの朝倉レン。
「……いきなり何?」
「相性診断AIの結果が出たんだ。俺たち、相性98.7%だって」
レンはスマートウォッチの画面を見せる。
確かに、そこには 「最適な恋人候補」 の文字が。
「だからさ、合理的に考えて、付き合うのがベストだろ?」
「……バカじゃないの?」
私は呆れて笑う。
「そんなの、データで決めるものじゃないでしょ」
「でも、無駄な恋愛の失敗を減らせる」
「無駄って……恋って、そういうものじゃないと思う」
レンは少し考えてから言った。
「じゃあ、どうやったら『本物の恋』になるんだ?」
私は答えられなかった。
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それから数日後。
放課後の帰り道、私はレンと偶然出くわした。
「なあ、高瀬」
「なに?」
「俺、最近気づいたんだ」
「何に?」
「お前と話してると、AIの計算じゃ説明できない感情がある」
「……たとえば?」
「お前が笑うと、なんか嬉しくなる。お前が困ってると、助けたくなる。そういうのって、相性データに出てこないんだよな」
レンは少し恥ずかしそうに言った。
「だからさ……もう一回聞く」
彼は私の目をじっと見て——
「俺と、付き合ってみない?」
0.2秒。
それが私が答えを出すまでにかかった時間だった。
「……うん」
AIは計算できない。
でも、心はもう決まっていた。