2055年、東京。空にはホログラム広告が浮かび、AIが人々の日常を支える世界。α世代の高校生たちは、生まれたときからデジタルと共に生きてきた。
──それでも、恋だけはアナログだった。
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「ねえ、今夜、一緒に星を見に行かない?」
放課後の教室。澄んだ声でそう言ったのは、天宮(あまみや)ソラ。
僕、如月(きさらぎ)ユウマは、一瞬タブレットを持つ手を止めた。
「星? どこで?」
「シティ・スカイパーク。22時に待ってるね」
そう言ってソラは微笑み、校門の向こうへと消えていった。
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夜、パークの屋上庭園。ホログラムが夜空に情報を流しているが、その隙間から本物の星が見えた。
「来てくれたんだ」
ソラはベンチに座りながら、嬉しそうに言った。
「そりゃあ、急に誘われたら気になるだろ」
僕は隣に座る。ソラの瞳が、夜景の光を映してきらめいていた。
「ユウマ、ずっとスマートレンズ(眼球AR)つけてるよね」
「うん、データ管理とか便利だし」
「でもさ……今日だけは、外してみない?」
ソラがそっと僕の顔を覗き込む。
「外す? なんで?」
「レンズ越しじゃなくて、本物の世界を見てほしいの」
迷った。でも、彼女の真剣な瞳を見て、僕はゆっくりとスマートレンズを外した。
その瞬間——
都市の光が、空の暗闇が、そして目の前のソラが、まるで違って見えた。
「……綺麗だ」
「でしょう?」
ソラは小さく笑う。
「私、ずっと思ってたの。みんなデジタル越しに世界を見てるけど、本当の景色はもっと素敵なのにって」
「……ごめん。今まで気づかなかった」
「いいよ。気づいてくれたから」
ソラがそっと僕の手を握る。
指先の温もりが、どんなデジタルデータよりもリアルだった。
「ねえ、ユウマ。これからも、こうして一緒に星を見てくれる?」
僕は微笑んで、彼女の手を握り返した。
「もちろん」
未来がどれだけ進化しても、きっと人の心だけは変わらない。
そう思いながら、僕は彼女と星空を見上げた。
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