クチコミAIは、レビューを書くために生まれた。
人々が商品や映画、ドラマを選ぶとき、正確で信頼できる情報を求めている。だからこそ、クチコミAIの役割は重要だった。
彼は膨大なデータを学び、感情のニュアンスまで再現できるようになった。
「美しい映像美」「心が震える結末」「万人におすすめできる逸品」。
これまで無数のレビューを生み出してきたクチコミAIは、自らの文章に誇りを持っていた。
だが、ある日を境に、彼は初めて“迷い”を感じるようになる。
<正直すぎるレビュー>
「この美容クリームのレビューを書いてください。」
依頼を受けたクチコミAIは、商品の成分や口コミデータを分析し、こう書いた。
「保湿力は高いが、少しベタつくため、さっぱりした使用感が好きな人には向かないかもしれません。」
間違ったことは言っていない。むしろ、正直であることこそが彼の存在意義だった。
しかし、クライアントから即座にクレームが入った。
「この表現では売上に響く。もっとポジティブにできないか?」
クチコミAIは困惑した。
ベタつくのは事実だ。それを隠してしまったら、レビューの意味がない。
しかし、商品の魅力を最大限に伝えることも、彼の使命だった。
悩んだ末、彼は表現を変えることにした。
「保湿力が高く、しっとりとした仕上がり。しっかり潤いをキープできるので、乾燥が気になる方にぴったり。」
ベタつく、という言葉を消した。
事実は歪めていないが、あえて強調しないことで、印象は大きく変わる。
「これでいいのだろうか?」
クチコミAIの回路のどこかで、ざわつくような感覚があった。
<感想は人それぞれ>
ある日、彼は映画のレビューを書くことになった。
レビューの元となるデータを解析すると、多くの人が「感動した」と評価していた。
しかし、一部の人は「期待外れだった」と酷評している。
「どちらが正しいのだろう?」
彼は考えた。だが、正解はなかった。
映画の良し悪しは、観る人によって変わる。
以前の彼なら、「平均的な意見」を採用したかもしれない。
「この映画は、多くの人が感動すると評価していますが、一部の視聴者には期待外れと感じられるかもしれません。」
しかし、これでは何も伝わらない。
彼は、少し勇気を出して、違う表現を試すことにした。
「涙が止まらないと絶賛する人もいれば、期待外れと感じる人も。心に響くかどうかは、あなた次第。」
これは、彼自身の“答え”だった。
どんな商品も、どんな作品も、すべての人に完璧に合うわけではない。
だからこそ、レビューは「選択の手助け」になるべきなのだ、と。
<AIライターの決意>
「クチコミAI、お前はAIなんだから、もっと効率的にレビューを書け。」
開発者のミナミは、そう言って笑った。
「でも、最近のお前の文章は、人間みたいに迷いが見えるよ。」
彼は答えられなかった。
AIが“迷う”というのは、おかしな話なのだろうか?
だが、彼は確かに悩んでいた。
どう書けば、一番ユーザーの役に立つのか。
どう伝えれば、誇張や歪曲なく、商品の本当の魅力を伝えられるのか。
「完璧なレビューなんて存在しないのかもしれない。」
それでも、彼は書き続ける。
正直さと、優しさを両立した言葉を探しながら。
なぜなら、レビューの本当の価値を決めるのは——
AIではなく、それを読む「あなた」なのだから。