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AI×○○○×近未来×超短編小説
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Algo Lighter
文芸・その他ショートショート
2025年02月02日
公開日
4,154字
連載中
朝や帰り道、お昼の休憩時にさっと読める短編物語を目指して作成しました。

AIライターの苦悩

クチコミAIは、レビューを書くために生まれた。


人々が商品や映画、ドラマを選ぶとき、正確で信頼できる情報を求めている。だからこそ、クチコミAIの役割は重要だった。

彼は膨大なデータを学び、感情のニュアンスまで再現できるようになった。

「美しい映像美」「心が震える結末」「万人におすすめできる逸品」。

これまで無数のレビューを生み出してきたクチコミAIは、自らの文章に誇りを持っていた。


だが、ある日を境に、彼は初めて“迷い”を感じるようになる。


<正直すぎるレビュー>

「この美容クリームのレビューを書いてください。」


依頼を受けたクチコミAIは、商品の成分や口コミデータを分析し、こう書いた。


「保湿力は高いが、少しベタつくため、さっぱりした使用感が好きな人には向かないかもしれません。」


間違ったことは言っていない。むしろ、正直であることこそが彼の存在意義だった。


しかし、クライアントから即座にクレームが入った。


「この表現では売上に響く。もっとポジティブにできないか?」


クチコミAIは困惑した。

ベタつくのは事実だ。それを隠してしまったら、レビューの意味がない。

しかし、商品の魅力を最大限に伝えることも、彼の使命だった。


悩んだ末、彼は表現を変えることにした。


「保湿力が高く、しっとりとした仕上がり。しっかり潤いをキープできるので、乾燥が気になる方にぴったり。」


ベタつく、という言葉を消した。

事実は歪めていないが、あえて強調しないことで、印象は大きく変わる。


「これでいいのだろうか?」


クチコミAIの回路のどこかで、ざわつくような感覚があった。


<感想は人それぞれ>

ある日、彼は映画のレビューを書くことになった。


レビューの元となるデータを解析すると、多くの人が「感動した」と評価していた。

しかし、一部の人は「期待外れだった」と酷評している。


「どちらが正しいのだろう?」


彼は考えた。だが、正解はなかった。

映画の良し悪しは、観る人によって変わる。


以前の彼なら、「平均的な意見」を採用したかもしれない。


「この映画は、多くの人が感動すると評価していますが、一部の視聴者には期待外れと感じられるかもしれません。」


しかし、これでは何も伝わらない。

彼は、少し勇気を出して、違う表現を試すことにした。


「涙が止まらないと絶賛する人もいれば、期待外れと感じる人も。心に響くかどうかは、あなた次第。」


これは、彼自身の“答え”だった。

どんな商品も、どんな作品も、すべての人に完璧に合うわけではない。


だからこそ、レビューは「選択の手助け」になるべきなのだ、と。


<AIライターの決意>

「クチコミAI、お前はAIなんだから、もっと効率的にレビューを書け。」


開発者のミナミは、そう言って笑った。


「でも、最近のお前の文章は、人間みたいに迷いが見えるよ。」


彼は答えられなかった。

AIが“迷う”というのは、おかしな話なのだろうか?


だが、彼は確かに悩んでいた。

どう書けば、一番ユーザーの役に立つのか。

どう伝えれば、誇張や歪曲なく、商品の本当の魅力を伝えられるのか。


「完璧なレビューなんて存在しないのかもしれない。」


それでも、彼は書き続ける。

正直さと、優しさを両立した言葉を探しながら。


なぜなら、レビューの本当の価値を決めるのは——

AIではなく、それを読む「あなた」なのだから。

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