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第29話 お経が聞こえる

 私がまだ幼い頃の話だ。

「お婆ちゃん、なんかお経が聞こえるよ?」

「どんな声をしてる?」

「男の人の声!」

「ああ、それなら亡くなったお爺さんだ。」

お経は、数日間続いた。


それからお経は聞こえることもなくなっていたので、学生時代、学生寮に入る頃にはすっかり忘れていた。


ところが、ある日のこと。部屋にどこからともなく線香の香りがしてきたと思ったら…。お経が聞こえてきた。お経はだんだんはっきりと聞こえてくると、私は耳をふさいで、

「お経が聞こえる。」

と、ルームメートに言ってしまった。

「不吉なこと言わないで!」

怒られてしまったが、その日夕方に、ルームメートの甥っ子が亡くなったという連絡が入った。

「黒いスーツ、持ってない…よね?」

「この、黒いスーツなら持ってるよ」

「着てみてもいい?」

「うん」

「…サイズぴったり!借りていい?」

「いいよ。」

私は快くスーツを貸した。朝礼で、黒のスーツ姿でスピーチをした彼女は、亡くなった甥っ子のことを話していた。朝礼が終わると彼女はタクシーで実家に帰っていった。





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